ウェブ上でできること、というのは限られています。でも、実際に知っておいた方がよいことはたくさんあります。このページは、基本的に私がトレーナーをしている「ストリングアズール」のメンバーや、これからアンサンブルに参加するであろう人たちを念頭に置いて書き進めていきます。
学生時代からいろいろなオケやアンサンブルに参加してみて、とても不満に思っていたことがあります。一つは音程。もう一つは、一緒に弾くために何をしたらよいのか、ということがどうもピントがずれているような気がしたことです。中にはとてもすばらしい指導者もいらっしゃいましたが、多くのトレーナー・指揮者が、「あわせること」「解釈を統一すること」に力点をおくあまり、アマチュアに必要な訓練が十分になされていないような気がしたからです。
ベテランプレーヤーの多いアマチュアオケだと、どうしても「色々な曲を演奏する」方向に指向が向いてしまいます。それはそれで意味のあることですが、それだけではないことができないだろうか、ということは、ずっと考えていたことです。
ニフティのフォーラムで、いわゆる「初心者」が中心のオーケストラに出会ったのは、1992年のことでした。(初心者、という言葉は原則としてこれ以上使いません。かわりに、レイトスターターという言葉を使います。)その集まりは、「普通 のオケに参加するチャンスがあまりない人たち」が集まってオーケストラ体験をする、というものでした。来るもの拒まず、練習も、きちんとした方針があるわけではなく、いってみれば「ただ演奏してみる」状態に近いものでした。「せっかくの場なのにもったいない」と思い、いわば「押し掛けトレーナー」として、それ以来7年間、アンサンブルの「レッスン」を続けてきました。 (さらに…)
◎ チューニングの大切さ ◎
アズールのいわば「前身」である「ドレ会」では、チューニングが名物でした。練習が始まって、時には一時間近くをかけて、全員のチューニングをします。なぜこんなことをするのか、と、結構批判もありました。みんな「弾きたくて」参加しているのに、チューニングを延々やられたんではたまらい、という批判です。その気持ちもわからないではないのですが、「耳を鍛える」ためには、どうしても「正しい音」「正しい響き」を理解することが必要です。そのためには、開放弦が合っていないことには、(特にレイトスターターたちにとっては)お話になりません。ですから、そんな批判にはめげずに続けていました。参加したばかりの頃は、全くチューニングができなかったメンバーも、回を重ねるうちに「正しい音」が聞こえてくるようになります。そうなればしめたもの。
ウィーンフィルは、とってもチューニングが下手だそうです。というか、「てんで勝手に合わせてる」らしい。でも、結果としては「美しいハーモニー」が作れます。なぜって、耳と技術があるから。でも、始めたばかりの人たちにとっては、開放弦は何よりも大切な「根拠」になります。ですから、チューニングをしっかりすることに、どんなに気をつかっても使いすぎということはありません。 (さらに…)
音楽の理屈を知ること自体が目的ではないので、詳しくは書きませんが、純正調と平均律の話も、基本的なことは理解しておいてほしいと思います。
音は波です。人間の耳には、この波の周波数(一定の時間の空気の振動回数。通常は1秒間に何回振動するかで表示する)が、簡単な正数比にある二つの音を「美しい」(はもる、ということです)と判断します。チューニングをするときのA音は、通 常440Hzから443Hzの間の高さの音を使用します。440Hzとは、1秒間に440回振動することです。振動数が減ると音は低く、増えると高くなります。人間の耳に聞こえる波の範囲は、個人差がありますが、ほぼ20Hzから20000Hz位 だと言われています。(余談ですが、電波などもこれと同じです。振動数が比べものにならないくらい多いので、耳には聞こえませんが。新聞のテレビ欄を見ると、テレビ局やラジオ局のところに書いてある数字がこれです。ちなみにkは「キロ」で1000を、Mは「メガ」で1000×1000を意味します。)オクターブの関係は、この振動数が1:2の関係にあります。A音を440Hzでとれば、オクターブ上のA音は880Hz、オクターブ下のA音は220Hzになるわけです。 (さらに…)
第3回目は、弦楽器の発音についてです。そんなん、楽器の奏法のテクニックの問題じゃん、と言わないでください。アンサンブルにも密接に関係することなんです。
プロとアマチュアの差、と言ったときに、何を想像しますか。そんなもん、たくさんありすぎて・・・まあそう言わずに話を進めましょう。
弦楽器の達人とそうではない人にはっきりとした違いがあることの一つに、音の立ち上がり、があります。本当に上手な人たちに混ざって弾いていると、周りの人たちの音が「先に出てくる」ような感じがするときがあります。別 にフライングをしているわけではありません。これは、音の立ち上がりがシャープなので、速く他人に音が届くのです。
達人とそうでない人の違いがよくわかるのが、弓のスピードです。これは、多くの人が気がついていることと思います。上手な人のボウイングは、きびきびしていますよね。でも、それだけではなく、音の立ち上がりの違いにも気をつけてほしいと思います。
音の立ち上がりをはっきりさせて、と要求すると、強く弾いたり、圧力をかけたりしてしまう人が多いですね。これは立ち上がりとは関係のない作業です。アクセントがついたような音は、邪魔になることの方が多いです。ましてや、力をかけてしまって音がつぶれてしまっては仕方ありません。 (さらに…)
旋律と和声の音程では音程が違う、という話を聞いたことがある人も多いでしょう。今回は、それを理屈で理解するための基礎知識です。人間の耳は、単純な周波数比の音をきれいであると認識する、ということを、Lesson2「純正調と平均律の基礎知識」で述べました。今回は、このことを利用して、和音と旋律の音程の秘密を探ってみます。
◎ 和音の秘密 ◎
音を発する物体は、その音だけでなく、その音の倍音列の音も発しています。倍音、というのは、読んで時のごとく、整数倍した音、という意味です。簡単のために、ある物体が発信するC音の周波数を1とします。すると、この物体から音が出るとき、周波数が1の音だけではなく、2,3,4・・・という音も同時に発します。もちろん、主音となる周波数1の音より比較にならないくらい小さいことが多いので、耳にはっきりとは聞こえないことの方が多いです。
さて、この倍音が、主音と比較してどの音になっているかを考えてみてください。周波数が1:2だとオクターブ(8度)でした。2:3だと5度。3:4は4度。4:5は長3度、5:6は短3度になります。(これは「知識」として知っていただければ結構です。)この発信体が発している音は、
1:2:3:4:5:6:7:・・・・・・
という音になるわけですから、実際には何の音が出ていますか? (さらに…)