柏木真樹 音楽スタジオ

トップページ > アンサンブル講座 > 番外編「その場飛びの悲劇 〜○○ブリ退治の法則〜」

楽器を始めたばかりの人には、すぐには関係ありませんが、思い立ったことは書いておかないとわすれちゃうので、書いちゃいます。

アマチュアのオケでモーツァルトを聴くと、とても気になることがよくあります。それは、「スピッカート」いわゆる「飛ばし弓」です。これは、歯切れよい音を出すのにとても便利なツールなので、指導者も、しばしば「ここは飛ばして」と要求することがあります。飛ばし弓の技術や、どんなときに本当に「飛ばす」のか、ということは別 項に譲りますが、ここでは、多くのアマチュアが陥っている誤りを、一つだけ書いておきます。

弦楽器は本来、弓を弦に直行させて引くことで音を得ます。これに対して、スピッカートという奏法は、弦に対して縦向きの運動を加えて、弓を弦からはなす作業を加えたものです。すなわち、音を得るための「弓を引く」作業に加えて、弓をはなして実音を終了させ、音の「切れ目」を作ったり、次の音の立ち上がりをクリアにしたりするのです。当然、弦から離れた弓は、次のスタートの時にはきちんとした立ち上がりで音が出るように、弦に接触してスタンバイすることになります。速いパッセージで使うスピッカートの場合、「離す」「引き始める」という作業を分離して行うことができないので、作業は一連の動きになりますが、あくまで「離す」と「引き始める」という二つの作業を行っているのです。

これに対して、多くの人が、弦に対して縦向きの運動を加えて、弓を弦の上でバウンドさせてしまっています。これは似ているようでも全く違う結果 を生みます。(何年か前に、数人の「スピッカート」をヴィデオでとってみたことがありますが、この差は、見ていてもはっきりわかります。)

バウンドさせるとコントロールしにくい、という技術的な問題点もありますが、それよりなにより、「音が汚い」んです。それには、二つの原因があります。

一つは、音の立ち上がりができないことです。弓を上方から弦に「ぶつけて」しまうと、弦は「たわんで」しまい、きちんとした音が出にくくなります。そして、次に弓が離れるまで、弓はまるで「弦を掘っているような」動きをします。

もう一つは、「弦を振動させる、弓を引く、という作業がなくなってしまいがちになる」ということです。題名の「その場飛び」とは、まさにこのことを意味します。

弓を弦に当てその場で飛ばしてみると、擦過音がします。少し「引く」要素を加えてみても、擦過音が大きくなるだけで、弦は振動を始めません。なんとしてでも音にしようとすれば、弓をたくさん使うか、激しく上下運動を加えて、「上下運動の結果弓が弦をこすった時間が生じ」るようにするしかありません。こうなると、引いている本人にはかろうじて音程が聞こえますが、周りの人には、単なる擦過音の固まりが聞こえるだけです。

一人で弾いていてもこうなるものを、30人の弦楽器でやってみるとどうなるか・・・

ステージの上を、無数のゴキブリがはい回っているような光景になります。モーツァルトの序曲によく出てくる速い8分音符の進行など、効果 はてきめんです。「がさごそがさごそがさがさがさごそ・・」

スピッカートには十分注意しましょうね。 (^-^;)