柏木真樹 音楽スタジオ

トップページ > アンサンブル講座 > lesson 1-2「純正調と平均律の基礎知識」

音楽の理屈を知ること自体が目的ではないので、詳しくは書きませんが、純正調と平均律の話も、基本的なことは理解しておいてほしいと思います。

音は波です。人間の耳には、この波の周波数(一定の時間の空気の振動回数。通常は1秒間に何回振動するかで表示する)が、簡単な正数比にある二つの音を「美しい」(はもる、ということです)と判断します。チューニングをするときのA音は、通 常440Hzから443Hzの間の高さの音を使用します。440Hzとは、1秒間に440回振動することです。振動数が減ると音は低く、増えると高くなります。人間の耳に聞こえる波の範囲は、個人差がありますが、ほぼ20Hzから20000Hz位 だと言われています。(余談ですが、電波などもこれと同じです。振動数が比べものにならないくらい多いので、耳には聞こえませんが。新聞のテレビ欄を見ると、テレビ局やラジオ局のところに書いてある数字がこれです。ちなみにkは「キロ」で1000を、Mは「メガ」で1000×1000を意味します。)オクターブの関係は、この振動数が1:2の関係にあります。A音を440Hzでとれば、オクターブ上のA音は880Hz、オクターブ下のA音は220Hzになるわけです。

簡単な正数比、という言葉が出てきましたが、1:2の関係の次に2:3という関係を求めてみます。これが「五度」の関係です。五度とは、C音とそれより高い一番近いG音との間隔のことです。実は、(「五度」という言葉遣いは正確ではなく、「完全五度」という言い方をしなくてはならないのですが、ここでは「五度」と言えば、この間隔を指すことにします。)C音を含めて数えて、半音にして8番目の音がG音になるはずです。次に、3:4の関係を求めると、C音とそれより高い一番近いF音との関係、すなわち「四度」になります。(これも、単に「四度」という言葉を使います。)同様に数えると、半音にして6番目の音との関係です。この二つの関係を使って、実験をしてみます。

最初のC音の周波数を1だとします。オクターブ上のC音は2、もう一つ上のC音は4になりますね。先ほどの「人間の耳に心地よい」簡単な正数比の関係にある五度と四度を使って、最初のC音から上の方のC音へ移動してみることにします。C音からG音へ移ると、周波数は3/2になります。次に、G音から一つ下のD音へ移動します。これは四度の関係です。周波数は、3/2×3/4になりますね。次にこのD音から一つ上のA音へ移動します。これは再び五度の関係です。周波数を求めると3/2×3/4×3/2になります。この作業を繰り返すと、再びオクターブ上のC音に戻ってくるのは、
C → G → D → A → E → H → F# → C# → G# → D# → A# → F → C
となって、五度と四度をそれぞれ6回ずつ繰り返したあとであることがわかります。

すると、周波数は
3/2×3/4×3/2×3/4×3/2×3/4×3/2×3/4×3/2×3/4×3/2×3/4=531441/262144
となりますね。

オクターブの関係は1:2ですから、理論的には求めるC音の周波数は「2」であるべきですね。しかし、531441を262144で割ってみると、2.0272865295…………となってしまいます。これでは美しい関係にはなりません。さぁ、困った。

というわけで、大昔の人たちもおおいに「困り」ました。個々五度・四度の関係を美しくすると、上昇する(下降する)につれ、オクターブがどんどん合わなくなってしまいます。それを解決するために(解決はしないんですねぇ。どう「ごまかす」か、ということなんです。)いろいろな方法が検討されました。(詳しくは、「lesson5 スケール」を参照してください。)で、結論。この12音を、無理矢理均等に割ってしまえ、というやりかたで作られたものが、「平均律」です。面倒くさいんでそれぞれの音の周波数を計算することはここではしませんが、それはそれは汚い数字です(^ ^;;ということは・・・音も汚いんです。

このようにして作られた平均律は、五度の関係では「それほど汚くない」関係ですが、四度、六度、三度となるにしたがって「耐え難い」差が生じてしまいます。弦楽器は自分で音程を作ることができるのですから、平均律ではなく、本来人間の耳に心地よい関係を使うことがたやすいはずです。そのためには、この「美しい関係の音たち」を知らなくてはいけません。これが、練習で体験してほしいことの一つです。

多くの人がピアノから音楽に入るので、平均律に「慣らされて」育ちます。もちろん、ピアノという楽器がダメだ、というわけではなく、ピアノと弦楽器は根本的に違うものだ、ということです。(ピアノにだって、奏者によって音程はありますが(「音程のよいピアノ」参照)ですから、弦楽器のアンサンブルをやるときに、せっかくの美しい関係を使わないのはもったいないんですよ。美しいスケールやハーモニーに慣れた人にとっては、「平均律は足を広げてすわるおばさん」のようなものだそうです(^ ^;;(私の言葉じゃないよ)

なお、以下のページに貴重な参考資料があります。是非参照してください。(Thanks to 大三元さん)

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