柏木真樹 音楽スタジオ

トップページ > レイトスターターのためのヴァイオリン講座 > 〈 講座08 〉楽器の選び方・買い方

いよいよ楽器の購入です。

すでにレッスンにつく先生が決まっている場合は、先生に相談するのが一番無難な方法です。これからお付き合いするわけですから、先生の意向も伺っておくことは大切だと思います。しかし、一つだけ残念な現実を書いておかなければなりません。それは、一部の先生が、楽器商と「癒着」しているということです。

私が初めて後輩を楽器屋に連れて行った後、何人かのお弟子さんを持ちました。二十歳過ぎの頃です。その楽器商は、私が自分の先生に任されてお弟子さんを持っているということを知ると、態度が変わりました。購入するお弟子さんに隠れて、「領収書は定価で切りますか?」と尋ねてきたのです。その店では量産品は「定価」とされている額の10%引きで買えることになっていることを知っていた私は、一瞬何を言われているのかわかりませんでした。すぐに気がついて、申し出をお断りしたのですが、その楽器商は「馬鹿だなぁ」という顔で私を見るばかりでした。

昔は、こういうことが「あたりまえ」に行われていたようです。本来の売値がはっきりしない「オールド」などは、楽器商にとっても、また先生にとっても「おいしい商売」になっていました。もちろん、こんなことをしているのは一部の先生だと信じたいのですが、都内でも有名な楽器商の多くがこういったことに手を染めていたのはよく知られています。先生の側からリベートを要求することも多かったと言います。

「芸大事件」以来、少し風向きは変わったのでしょうか。ネットなどで情報が簡単に流通 することもあり、最近はこういうことが少なくなった、という人もいます。しかし残念ながら、まだ完全になくなってはいないようです。

ほとんどの弦楽器専門店は、量産品や消耗品を「定価」では売りません。10%引きでは少ない、20%引きが標準? 渋谷の老舗などは、ふらっと行っても30%引いて売ってくれます。競争が激しいので、そうでないと「お客さんがつかない」んですね。もし先生に「量産品」を勧められてそれが定価だったら、先生選びに失敗した可能性もあります。もちろん、可能性でしかありませんが。

◎ サイレントヴァイオリンは練習用に使えるか? ◎

数年前から、サイレントヴァイオリンがはやりだしました。音を出せない住環境にはぴったりのようなこの楽器、果たしてヴァイオリンを練習するためには優れているものなんでしょうか?

答から書いてしまうと、「サイレントヴァイオリンは、アコースティックとは別のものだと思ってください」というところでしょうか。何度か試奏してみましたが、ヴァイオリン学習者が使うものとしては、致命的な欠点がいくつかあります。

まず、響きの問題です。普通のヴァイオリンなら、金属製のミュートでもつけない限り、音程による共鳴が感じられます。サイレントヴァイオリンにはこれが感じられない。つまり、きちんとした音程の練習にならない、ということです。箱がなるのではないのですから、当然のことなのですが。そして、右手にとっても練習にならないばかりか、変な癖がついていても気がつかないでしょう。

どうしても音が出せないので仕方ない、という方は、サイレントヴァイオリンでの練習は、左手の運動性能を上げるためのフィジカルトレーニングしかできない、ということを十分理解した上で使うしかないような気がします。

◎ 楽器と弓の値段 ◎

まず、一般論としての楽器の値段について知っておいてください。(もちろん、上の方を見る必要は今はないでしょうが・・・)

超一流の演奏家が使う楽器、例えばストラディヴァリやグァルネリなどは、「価格」はありません。必要な人が払って買うのですから、1億であろうと2億であろうとあり得るわけですね。その次のクラスも、値段的には「別世界」です。ガダニーニ(イタリアの名器)など、コンチェルトを十分演奏できる、数千万で取り引きされる楽器群です。これが「ぴん」の世界です。

オケプレーヤーやアンサンブルで演奏活動をしているプロ達の持っている楽器は、100万の単位 から1000万を越えるくらいまでが普通でしょうか。腕自慢のアマチュアでも、このクラスの楽器ならば持っている人がたくさんいます。その中でも、500万を越える楽器は数も少なくなり、かなり「良い」ものが多いです。一方で100万ほどの楽器でも、気に入る要素を持っているものに出会えることが少なくありません。

ほとんどのベテランアマチュアが持っている楽器は、鈴木などの量産品を除くと、30万から100万くらいの間でしょうか。そして、それより安い量産品が続きます。一番安いものは、通販などで売られている中国製のもので、弓やケースまで合わせて一万円なんていうものもあるようです。

楽器の値段を決める要素は色々あります。作者が誰か、いつ頃のものか、鑑定書があるか、しっかりしたところの鑑定書か、ラヴェルが本物か、傷がないか、といった、いわば「物理的な」事情によって「相場」が形成され、その「相場」の範囲で、音質、パワーなどの「実際に出る音」によって、その値段が決まるわけです。これが、量産品でないヴァイオリンの値段を決める要素です。量産品は、作り方、材質などによって、一律な値段が付いています。

実際には、音の与える満足度と値段は一致するものではありませんが、現在は(まともな楽器屋なら)逆転現象が起きる可能性は「好みの問題を除けば」少ないような気がします。値段をとてもよく表している例として、あるアマチュアの楽器の話をします。

この方のヴァイオリンは、とても「可愛い」音がします。イタリア製の楽器ですが、それほど古くはありません。クレモナなどの北部ではなく、南部の楽器だと言うことで、クレモナ製と比べるとお買い得感があります。さて、この人がこの楽器のほぼ三倍の値段のものを手に入れました。この楽器は重厚な音がして、パワーがあります。しばらくはそれで完全に満足していました。しかししばらくすると、以前の「可愛い音」が忘れられません。どうせなら、「可愛い音がして十分なパワーがある楽器」が欲しいと思いました。すると楽器屋さんは、「値段がさらに三倍になります」と言いました。初めの楽器が一ヶ月分の給料だとすると次が三ヶ月分。そして両者の長所を同時に持っている楽器は、なんと9ヶ月分になってしまうのです!

美点をたくさん兼ね備えている楽器は、やはり高くなってしまうものです。逆に考えると、自分が本当に「何が好きか」ということに絞って選べば、平均値でバランスの良いものより満足度の大きい楽器に巡り会える可能性がある、ということも言えるのです。

弓に関しても、同様な「ランク付け」が可能です。フランスやイギリスのオールドの中には、1000万を越える額で取り引きされるものもあります。プロが持つものは、やはり100万単位 のものが主流です。アマチュアの多くは、10万~数十万クラスの弓を持っているようです。一番安い量産品だと、一万円台からあるようです。弓の値段を決める要素も、ヴァイオリンとほぼ同じです。

高いものの話を聞くと、ため息がでてしまいますね。

◎ 予算を決める ~ 実際にどのくらいの金額になるのか ◎

楽器を始めるときに、まず自分の懐具合と相談して「これなら」という予算を決められる方が多いのではないでしょうか。もちろん、無い袖は振れないわけですが、ある程度楽器の値段というものに目算があって予算を決められるのもよい方法だと思います。そのあたりについて書いてみようと思います。

通販もの、中国製の格安ものは?

まず、一番安いクラスです。私は「楽器本体・弓・ケース・松ヤニ・肩当て付きで現地価格約一万円」という中国製の楽器を目にしたのが、一番安い事例です。これは例外としても、通 販などで売られているものは、セットで2~3万というものが多いようです。これらの楽器は「ある特殊な用途を除いて、決してお勧めできません。」これらの楽器は、根本的な欠陥を持っている場合が多いからです。

一昔前出回ったような、「開けてみたらペグが回らない」などというとんでもないものはないようですが、楽器として使用に耐えない欠陥が露呈するケースは多いようです。例えば材料によって、湿気が多い時期に全くペグが回らなくなったりする可能性があります。こういった場合、楽器屋にくり返し調整に出すはめになって、買った値段より高くついたりしかねません。それ以前に、このタイプの楽器は、まともな楽器屋だと「調整できません」といって断られる場合の方が多いでしょう。そうなると全く使い物にならないわけです。

ここまでひどくなくても、駒が楽器に合わせて削られていないのは「当然」のようです。ヴァイオリンは弦の振動が駒を経由して楽器本体に伝わり、本体の「箱」が鳴ることで音が出ます。駒を単に楽器に立てただけでは、この振動の伝達がうまくいきません。ということは、鳴らないわけです。

他にもいろいろありますが、少なくともレッスンについてヴァイオリンを練習しようと考えていらっしゃるのでしたら、この手の楽器はやめた方が良いでしょう。

量産品でも同じじゃない!

次のクラス、鈴木などの量産品についてです。カタログを見ると、5万円台からあります。最近は通 信販売をしている楽器店も多く、購入するにはとても便利です。弓についても、1万円台からありますから、ケースや付属品と組み合わせて・・・大体7万円ということになります。さて、これで最低限の予算のめどがつきました。じゃあインターネットで購入しましょう・・・ちょっと待ってください!

地方に住んでいたりして楽器屋さんに出かけることができない、という事情がない限り、楽器は必ずお店に行って自分で確かめてから買うようにしましょう。もちろん、初めて楽器を買うのに、どうやって確かめて良いかもわかりません。(ですから、信頼できる先生なら、先生に相談するのが楽だし安心なのです。)まず、身のまわりで、そこそこ上手な、信頼できる人を捜してみてください。その方と一緒に出かけましょう。もしそういう人がいなければ、楽器屋さんに弾いてもらうことを考える必要があるでしょう。

と書いたのには、幾つかの意味があります。第一に、量産楽器でも均一ではないということです。これには、製品の個体差という、どのようなものにでも発生する結果 があると同時に、実は「人為的な差」もあるのです。製品の個体差については仕方ないでしょう。しかし、楽器店がそれをどう扱っているか、ということによって、買う側には大きな差が出てしまいます。同じ値段を出すのでしたら、少しでも良いものを買った方がいいのは当然ですね。

量産品の多くは、「卸」と言われる仲介業者を経て、小売店に入荷します。バラした状態で入荷することも多いです。それを小売店が組み立てて、ユーザーに販売します。さて、ここに問題が生じます。

まず、組み立てるときにちゃんとしたことができない店があります。もちろん、弦楽器の専門店ではそういうことは決してありませんが、地方都市だと人口が数十万単位 の処でも、そういういいかげんなことをして楽器を売っているところがあります。私が実際に見た例だと、駒が反対につけられていたのがありました。(駒に表裏があるなんて始めたばかりの人は気がつきませんよね。)もちろん、こんなのは論外ですが、組み立てた後試奏してきちんと検品する楽器屋としないところがある、というところで問題が生じます。

まともな弦楽器店は、試奏してみて問題のあるものは突っ返してしまいます。しかしそんなことをしない楽器店も残念ながら多いのです。するとどうなるか・・・突っ返された楽器は、そういうことをしない「生産者に優しい」楽器店に並ぶわけです。結果 は・・・明らかですね。

それともう一点。自分で楽器を選ぶと、楽器に対して愛情がわく、というとても大切な要素があります。これから長い間お付き合いする事になる楽器です。愛情がないと、あなたも楽器も可哀想です。ですから、同じランクの楽器でも複数を試奏できるところが望ましいと思います。楽器屋をはしごしても構わないでしょう。自分が弾けないし安物だから、といって卑屈になることはありません。そういうユーザーにもきちんと対応できない楽器屋はこちらから願い下げだわ、と言うくらいに開き直っても良いと思います。もちろん、初めは自分で弾くことはできませんから、誰かに実際に弾いてもらって「聴いて」判断することになるでしょう。自分の耳で楽器を選ぶ、という大切なステップを、ご自分の楽器を手にするときには必ず通過して欲しいのです。そのときに、適切なアドヴァイスをもらえる人と一緒であれば、満足する楽器選びができるでしょう。

価格帯とどれを選ぶかの考え方

ここが、ある意味ではこのテーマの一番重要なところです。

量産楽器の一番安いものでセットを組むと、7万円ほどになることがわかりました。どうせ始めるところだし一番安いのでいいや、とお考えの方、ちょっと待ってください。

弦楽器は原則として「新品は高くて中古は安い」という普通の商品の感覚が当てはまらないものです。そりゃそうですよね、世の中で一番高い楽器は、今から250年も前に作られたものです。では古くなれば高くなるのか、というと、そうも単純ではありません。バブルの時代以前ならともかく、ここしばらくは、楽器の値段が高騰することはなさそうです。一つの目安は、「楽器屋さんは売ることを考えて楽器を仕入れる」という当然のことです。誰かが使っていた楽器は、どんなに素晴らしい楽器でもそのままでは売りません。きちんとメンテナンスをして、クリーニングをして、ようやく売ることができるのです。ですから、当然その費用がかかることになります。楽器屋さんが楽器を下取り、ないし買い取ってくれる場合、この費用を考えた値段が「適正な」ものになります。

例えば5万円の量産品の新品を買って2年後に良い楽器に乗り換えたくなった場合、買ったヴァイオリンはいくらで売れるのでしょうか。これは、もろに「中古品扱い」になります。せいぜい2万円というところでしょうか。もちろん、弦楽器の専門店では1万円でも引き取ってくれないところがほとんど全部でしょう。メンテをしてクリーニングをして、という手間を考えれば、とてもではありませんが商売にならないからです。ネットで売るか、後から始めた友人に売るか・・・どっちにしろ、「捨て値」になることは間違いありません。

これが、2~30万(これはあくまで目安です。)を越える「新品ではない」楽器になると、条件が一変します。まともな弦楽器店なら、最低限「楽器の値段からメンテナンス代を引いた値段」で下取りしてくれるものなのです。弓についても同じようなことが言えます。

同じ量産品でも、最近はいろいろな国から楽器を輸入している卸・楽器屋さんが増えました。さすがに5万円台で見つけるのは難しいですが、10万円前後からは、かなりいろいろな種類の楽器が選べるようです。ネットで検索してどんなものがあるかを知ることもいいでしょう。私も随分見つけました。(一昔前は、ドイツ製や旧東欧製が主流でした。なかでもチェコ製の楽器は、値段の割によい音がするものが多かったような気がします。)東京や大阪などの大都会にお住まいでしたら、そういった楽器の差を聴かれることは、とてもよい勉強になると思います。そして、楽器屋さんによって在庫にしている量 産品にも違いがあります。何軒もの楽器屋さんを訪ねてみると、もちろんご自分の処で扱っているものを自賛します。(そりゃそうですよね。それが良いと判断したからラインナップに加えたわけですから。)その差を見てお気に入りの楽器屋さんも見つかってしまうかもしれません。そんな楽しみ方もあります。

少々値の張る値段の楽器のことを書いたのには、大きな理由があります。一つには、なんと言っても音の問題です。イタリア製の楽器に対する極端な高評価を除けば、やはり楽器の音は値段に比例する部分が大きく、じっくり弾こうと思うのでしたら、少しでも良いものを持つ方が長続きする可能性があります。特に何年か経って(何ヶ月、という人もいますが)他の人たちと一緒に演奏する機会を得ることができるようになると、「もっと良い楽器が欲しい」という強烈な欲求に襲われる人はとても多いです。本気でヴァイオリンを練習するつもりなら、他のことは少し倹約してでも、ちょっと贅沢をしてみることをお勧めします。「楽器を替えて楽器に教わるようになった」と言う人がたくさんいます。それほど、楽器の状態によって演奏の効果 、練習の実質的な内容も変化する可能性があるのです。

かといって、そんなに「無謀な」予算を立てる必要はありません。私が今まで見てきた限りでは、10万円台の外国製に、比較的満足度の高いものがあるような気がします。もちろん、楽器本体に20万以上、場合によっては30万も出せる、という方なら、新品でない楽器から選ぶことも可能です。そして、7,80万前後から、また別 の世界が拡がります。そういうものは、将来目指すものとしてとっておきましょう。(一昔前のニフティのフォーラムでは、レイトスターターがこのランクの楽器に乗り換えることがはやりました。事例も刺激も多いので、それこそ「インスタントラーメンで我慢しても」買った人までいます。このあたりの値段を超えると、「出会ってしまったら忘れられない」恋人状態になってしまう人が多くなるように感じました。余談ですが・・・)

さて、弓です。弓もヴァイオリンと同様、一本一本が全く違います。量産品に限って言えば、その差はヴァイオリンよりはるかに大きいと言えます。ということは・・・選ぶのが難しいのです。

弓の選択には、もう一つの問題があります。「良い弓になればなるほど、誰が弾いても楽に音が出る」ということなんです。言葉は悪いですが、「弘法筆を選ばずの名人ほど良い弓を持ち、道具に助けてもらいたいひよこ達ほど悪い道具に苦労する」というのが実情なのです。ですから、少しでも慎重に、自分のためになる弓を選びましょう。

仮に15万ほどの楽器を買おうと思うのでしたら、弓にはどんなに少なくとも半分くらいの値段はかける価値があります。楽器が安くなれば安いほど、弓は同額でも、場合によっては弓の方が高くても決して後悔はしません。これは、楽器も弓も取り替えた後、楽器はどうしようもありませんが、弓はセカンドボウとしての利用価値もある、という将来を見こした戦略でもあります。私の経験だと、やはり10万前後の価格帯に、かなり性能の良い弓があるような気がします。ヴァイオリンと同様、30万前後を境目に、劇的な質的違いがあると思います。(一昔前に出たカーボン弓の値段を決めるためにメーカーの人が来日したとき、値段の決め手になったのは30万ほどの弓との評価の差でした。実際の価格は30万を少し切るところに設定されました。それ以上高いと極端に売れなくなるという判断だったのだろうと思います。)

弓は大変に微妙なものです。重さが1グラムも変わると、手に感じる重みは激変します。同じ重量 でも、重く感じるもの、軽く感じるものなどさまざまです。ですから、できれば直接レッスンを受ける先生、それがだめなら信頼できるベテランにアドヴァイスをしてもらうことが欠かせないと思うのです。

と言うわけで、経済状況を無視して考えると、トータルで30万ほどが、長い目で見て後悔しない楽器選びの予算の基本だと思います。今はそこまで予算がないのであれば、何をどのように削るか、ということを考えてみましょう。今出せるのは20万だ、というのでしたら、私なら8万円の楽器と12万円の弓を勧めるかもしれません。それなら、将来楽器を替えようと思うとき、弓はうまくいけばそのままで使えます。そういういろいろな条件を全て勘案して、予算を考えてみるのも一つの方法です。

(もっと高い楽器に買い換えるとき、というテーマは、しばらくしてから書くつもりです。)

◎ 楽器と弓の相性 ◎

よく、「この弓はこの楽器と相性が悪い」とか、「二人は愛し合う夫婦のように相性がいい」なんて言うことがあります。実際、楽器と弓の相性に神経を使っている人は多いようです。果 たして物理現象を超えた相性は存在するのか?

いろいろと実験をしてみるとわかりますが、楽器と弓に「誰が弾いても同じ結果が起きる個体差による相性の善し悪しはない」というのが正解です。(ただし、楽器と弓との間の「格」が違うと、話は違ってきます。)奏者を替えて何台ものヴァイオリンと何本もの弓を引き比べると、絶対的に良い・悪いの差が出てくることや物理的に判別 できる場合(弾く前から明らかである・説明できる場合)を除けば、結果はバラバラです。ではなぜ、楽器と弓に相性があるかのように思われているのでしょうか。

一つは、楽器や弓がそれぞれの特徴を持っていることがあります。ごくおおまかに分類すると、イタリアの楽器は明るい音、フランスの楽器は柔らかい音、ドイツの楽器は重厚な音、なんていう表現をされることもあります。もちろん、各地方でも制作者によっての違いもあります。弓についても同じような差があります。イギリスのものは強く、フランスのものは柔軟で芯がしっかりしている、スイスやドイツのものは機能的、なんていう解説を目にしたこともあります。そしてどんなに安い楽器でも、それぞれ特徴やスタイルがあります。この組み合わせによる相性がまずあります。そして、もっと大きいのは「その人のボウイングと弓の相性」なのです。ですから、「これくらいの価格帯で弓を買いたいのですが」と楽器屋に予約の電話を入れると、よい楽器屋さんなら幾つかのタイプの弓を見せてくれます。その場合の「タイプの差」とは、バランス、重さ、強さなどの微妙な違いです。そのどれが合うかは、実際に弾いてみないとわからないのです。

初めて楽器を弾く場合、こういった検証を自分ですることはできませんが、ある程度の値段を出して「音を気に入って」楽器を購入すると、その音を目指した練習ができます。今書いたように、ボウイングと弓との相性はとても重要ですから、気に入った楽器と弓の組み合わせで練習することは、自分の演奏のイメージを作るために大変役に立つのです。ボウイングのためにもなります。こういったことも、楽器選び、弓選びのための判断材料としていただければ、と思います。