柏木真樹 音楽スタジオ

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(1)ピタゴラス音律、純正律、平均律の音程表

こうして、セント値を一覧表にすると、書く音律の性格がよくわかる。純正律とピタゴラス音律の完全5度(オクターヴ内で裏返せば完全4度)が数値として同じことや、長3度が純正律とピタゴラス音律で極端に乖離していることもよくわかるはずである。図表の数値を覚える必要はないが、ピタゴラス音律の数値は簡単に作ることができる。ピタゴラスサークル上で隣り合う半音は90セント、全音は204セントになるだけだからである。主音をCに取ると、短2度(D♭)が主音から90セント、長2度(D)が204セント、短三度(E♭)がDから90セント、長3度(E)がDから204セント・・・というように確認してみればよい。五度を積み上げていくと、平均律との誤差(2セント)だけ、順に差が増えていく。Cからスタートすると、G→D→A→E→H→Fis(増4度)→Cis(増1度)→Gis(増5度)と順に2セントずつ平均律との乖離が大きくなることがわかるはずである。5度下がっていくと、逆に2セントずつ狭くなっていく。

(2)陥りやすい音程の誤り一覧

ヴァイオリン奏者(弦楽器奏者)が陥りやすい音程の誤りを一覧にして記す。詳しい解説は、音程講座の「実戦編」で行う予定だが、すぐ役立つものとして理解していただきたい。陥りやすい誤りは「弦楽器のイントネーション」にも記されているが、私がこれまでしてきたレッスンで、ここで指摘されている点がやはり多くの人が繰り返す間違いでもあることがわかっている。若干の解説を加えておく。

1)基本的な音程(スケールなど)について

長調の第三音が低くなる、短調の第三音が高くなる

第三音は、調性の性格を決める大切な音であるが、上記のような音程の取り方をすると、せっかくの調性の性格が曖昧になってしまう。きちんとした音程の取り方を習ってこなかった人に正しいスケールを弾かせると、多くの場合「こんなに高い(低い)ミの音を取ったことはありません」と言う。特に、ピアノを長い間弾いていた人には顕著な傾向。

長調の第四音が高くなる

これは前項とセットになっている。音律表をみるとわかるが、第四音は通常のスケールで、平均律と比べて最も低い位置にある。非常に高い第三音から狭い半音をしっかり取らないと、第三音を高く取ったことによって表現されるメリハリが失われてしまう。

導音が低くなる、導音から連続する主音が高くなる

導音は、スケールの中でも最も性格がはっきりしている音である。音律表上で確認できるが、平均律から最も高く乖離している音でもある。この音が低いと、やはり旋律の性格が曖昧になる。前項同様、高く取った導音の次の主音への距離が遠すぎると、メリハリが失われる。

上記三点を、ピタゴラス音律の求め方から理解しよう。

F ← → G → D → A → E → H
平均律からの乖離 ←低くなる 次第に高くなる→

主音(C)から五度圏を上がっていくと平均律から高いほうへ乖離する。その差は五度動くたびに2セントずつ広がる。低くなりがちな音は右側に、高くなりがちな音は左側にあることが理解されるはずだ。

ポジションが上がると音程が上ずる

これは、初学者に限らない傾向である。原因はいくつかある。一つは音程の性格そのものから導かれる。全音(204セント)は、狭くなると前進する力が弱くなるので、比較的広く取りやすいが、半音(90セント)は広くなりやすい。人間の耳がより高い音を認知しやすいという特徴を持っていることにも起因するだろう。プロの演奏でも、音程が高く乖離してしまうケースは少なくない。

2) 指の形などから

半音が広くなる

どの指、どのポジションでも起こりやすい。上行形に十分注意が払えても、下降形では意識が希薄になることが多いので注意したい。

五度の移弦で音程が不安定になる

どちらに(高く、低く)振れてしまうかは、上の五度に移るか、下の五度に移るかによって、また、その人の指の形(縦に寄っているか、比較的寝ているか)によっても異なる。五度を同時に、楽な形で取ったときに起こりやすい音程のずれの方向にぶれてしまうことが多いので、自分の傾向を知って対処してほしい。

E線のF、A線のB

これも指の形(手の形)による差が大きいが、開放弦から90セントの音程は、非常に不安定になりやすい。人間の手は、狭いところで動くことが大変苦手である。1の指は指板に近く、動きにくい。フラット系の音程の場合、この二音が高いととても聞き苦しいものになる。

3) その他の主な傾向

オクターヴの上の音が高くなる

オクターヴは、完全に協和した場合、差音の影響で上の音がほとんど聞こえなくなる。このため、弾いている側に上の音がはっきりと聞こえず、不安になってしまうことが多い。ソリストがオクターヴの連続進行で上の音をわざと高くずらして、上の音の進行を明確に聴かせることはあるが、基本的には協和したオクターヴを練習すべきである。

重音進行で次第に音程が上ずる

これも、人間の耳の性質による。人間の耳は、上の音、相対位置が高い音(ドミソやミソド、ソドミならソの音)をよく聞いてしまう。重音進行でどちらかの音が高くずれてしまうと、そのずれた高い音に合わせてしまおうとする傾向が強くなる。結果として、次第に音程が上ずってしまうことになる。