柏木真樹 音楽スタジオ

トップページ > レイトスターターのためのヴァイオリン講座 > 〈 講座99 〉音程が「悪い」と音程が「無い」

音程が悪い、と自分で言う人がいます。人の演奏を聴いて音程が悪いと感じることもあるでしょう。それでは、「音程が悪い」とは一体どういうことなのでしょうか。いくつかに分類して考えてみると、1)はずす、2)間違える、ないしちょっとした勘違い、3)根本的な勘違い、4)知らない、の四つのパターンが考えられることに気づきました。

1)はずす

これは症状としては軽傷です。自分が演奏すべき音程はわかっているが、技術的に弾けない、ないし、練習不足で上手く弾けない、といったときに起きることだからです。弾いている本人は、外した音を認識しています。この場合、処方箋は明らかです。練習する・技術を修得する、という作業をすればよいだけです。(もちろんそれはそれなりに大変ですが)

2)間違える、ないしちょっとした勘違い

じっくり練習すれば音程がわかるし弾ける、もちろん、耳もしっかりしているのに、何故か音程が悪いことがある場合です。ほとんどの部分がきちんとした音程で演奏されているのに、あるところだけ変だ、という結果 になって表れるケースですね。これは、多くの場合、弾いているときに自分の演奏している旋律ラインや和声進行を見失ってしまうことによって起きます。これが頻繁に起こる場合、かなり音程が悪いと感じられてしまうことがあります。

3)根本的な勘違い

根本的に音程構造を間違えている場合です。平均律しか知らず、特に旋律線の音程を必ず平均律で取ってしまうケースもこれにあたります。また、旋律音程の進行を全く勘違いしているケースもあります。こういった場合、演奏される音程はかなり悲惨なものになります。かなり弾けるアマチュアのベテランにも頻繁に見られる症状です。

4)知らない

「ヴァイオリンらしい音程で弾きなさい」と言われたことがある人はいないでしょうか。旋律を弾いていても、なんとなく先生の音程と違う・・・どこが、ということはわからないのだけれども、違うことは確か・・・アズールのメンバーの中にも、先生にそんなことを言われた人がいました。これは一体どういうことなんでしょうか。このような場合のほとんどは、旋律音程の認識がないことから起きます。ただなんとなく音程を取っていると、簡単に言えば音程のメリハリがつきません。それで「弦楽器らしくない」音程になってしまうのです。

簡単に説明すると以上のようになると思います。この時、1)2)のケースは「音程が悪い」3)4)の場合は「音程がない」と感じられます。(ただし、2)のケースの極端な場合は、3)に近くなってしまうこともあるでしょう。)

ここで取り上げたいのは、「音程が無い」ということの意味と対策です。

音程を作るのは、耳です。通常、普段の練習中から一生懸命自分の音を聴いて、音程を修正する努力をされているはずですね。1や2のケースでは、技術的なこと、勘違いしていることを修正すれば、音程を徐々に良くしていくことは可能です。3,4のケースでは、耳が正しく働いているかどうか自体を判断しなくてはなりません。

大人が音程感覚を身につけようとする場合、とにかく最短距離を目指すことが必要です。子どものように、成長につれて与えられる長い時間がありませんから、無駄 なことを続けていては「間に合わない」可能性が強くなってしまうのです。また、子どもの間から音を聴くことになれていない耳では、耳自体を修正することにもかなりの時間がかかる場合があるからです。(ただし、この能力は本当に個人差が大きいです。)ですから、まず耳がどう働いているかと言うことを判断します。

二音以上の音が鳴る場合については、「〈講座04〉音感について1」を参照にしていただければ、何をすればよいのかはわかると思います。問題は「旋律的な音程」です。

旋律的な音程の聞き分けができるかどうかを判定するには、「旋律的な音程とそうでないものを引き分ける能力を持った人」に例示してもらうしかりません。その差がすぐわかる人なら、「聞き分け」は比較的短時間に覚えられる可能性があります。いろいろなパターンで実際に聴き比べてみることで、「聞き分け」ができる範囲(音楽的な複雑さ)を広げていけばよいのです。

これを再現する(自分で演奏するときに応用する)ためにはどうしたらよいのでしょうか。

一番「正統派」のやり方は、「地道にスケールや分散和音を練習する」ことです。スケールと分散和音を思い通りの音程で弾けるようになれば、もちろん曲を演奏するときには応用がきくものです。ただ、このやり方にはとても長い時間がかかります。スケールの練習は続けるべきですが、それだけではなく、易しいフレーズを旋律的に弾く練習をすることも必要だと思います。できれば、録音を取って確認をしながら、自分がどのような音程で弾いているのかをチェックしてください。もちろん、レッスンなどで先生にチェックしていただくこと、先生にお手本を示してもらうことはもちろんです。

実は、3)と4)を分けたのには理由があります。レイトスターターの多くは、音程が「無い」場合、4)に分類されることが多いと思います。(このような音程に関するレッスンを受けたことがない人も多いのではないでしょうか。)しかし、3)のケースもよく見ます。それは、演奏家であったりベテランのアマチュアであってもあることなのです。非常に複雑なものを弾いているときには気がつきませんが、簡単な旋律がなんとなく「かっこわるい」ことは、残念ながら少なくありません。演奏家やヴェテラン・アマチュアが4)であることはまず考えられませんから、それを「重大な勘違い」として分類したのです。

「音程が悪い」と「音程がない」を僕が区別しているのは、もちろん演奏を分類することそのものが目的なのではなく、それぞれの対策が異なるからなのです。お分かり頂けましたか?