柏木真樹 音楽スタジオ

トップページ > アンサンブル講座 > lesson 1-4「旋律と和声の音程の基礎知識」

旋律と和声の音程では音程が違う、という話を聞いたことがある人も多いでしょう。今回は、それを理屈で理解するための基礎知識です。人間の耳は、単純な周波数比の音をきれいであると認識する、ということを、Lesson2「純正調と平均律の基礎知識」で述べました。今回は、このことを利用して、和音と旋律の音程の秘密を探ってみます。

◎ 和音の秘密 ◎

音を発する物体は、その音だけでなく、その音の倍音列の音も発しています。倍音、というのは、読んで時のごとく、整数倍した音、という意味です。簡単のために、ある物体が発信するC音の周波数を1とします。すると、この物体から音が出るとき、周波数が1の音だけではなく、2,3,4・・・という音も同時に発します。もちろん、主音となる周波数1の音より比較にならないくらい小さいことが多いので、耳にはっきりとは聞こえないことの方が多いです。

さて、この倍音が、主音と比較してどの音になっているかを考えてみてください。周波数が1:2だとオクターブ(8度)でした。2:3だと5度。3:4は4度。4:5は長3度、5:6は短3度になります。(これは「知識」として知っていただければ結構です。)この発信体が発している音は、
  1:2:3:4:5:6:7:・・・・・・
という音になるわけですから、実際には何の音が出ていますか?主音に対して、オクターブ上のC、その5度上のG、その4度上のC(この音は、初めの1に対して正確に4になっていますね)、さらにその上のE、その上のG(1:3と2:6の位 置関係を確認してください)・・・という具合になっていることがおわかり頂けると思います。この音たちのことを「自然倍音列」と呼びます。

弦楽器の場合、この音を簡単に理解することができます。Gを開放弦で弾いたときの周波数を1とすると、弦の長さの半分の所を押さえるて弾くと、オクターブ上の音(周波数は2倍)がでます。この音は、きちんと押さえなくても鳴るはずです(フラジオレットと言います)。弦長の1/3のところを同様にフラジオレットで弾くと、その上のDがなるはずです。同様に、1/4,1/5のところ位 までは、耳に聞こえる倍音列を確認できるはずです。

実は、この自然倍音列が、和声の音の構造の基礎になっているのです。三和音(ドミソ、のことです)は、この倍音列上の音です。さらに、7倍音を入れると、主音のCに対するB(シのフラット)までが、この音列の中に入ってきます。この比率で複数の音が同時になると、いわゆる「はもる音」になるわけですね。反対に言うと、これから外れた音は「うなり」を生じることになります。

◎ 旋律の構成音 ◎

次に、旋律に使われる音について探ってみます。

まず、「全音」と「半音」について思い出してください。半音は隣の音、全音は半音二つ分、ですね。人間の耳は、音が一つ一つ進行するときに、この「全音」を「広くとると」きもちいいと思うようになっています。この「広く」というのは、「平均律に対して」と思っていくださって結構です。この「広く」という関係は、実は弦楽器には実例が備わっています。

開放弦からハ長調の音階を弾くことを考えてみましょう。(ヴィオラを想像してください)C音の次はD音になりますね。このD音は、実は、純正に合わせた時の開放弦のD音と同じ(オクターブ違い)の音になるのです。初めのC音の周波数を1とすると、開放弦のG音は3/2、開放弦のD音は9/4になりますね。するとそのオクターブ下(音階の実際のD音)の周波数は、9/8になることがわかるはずです。

さて、この作業をもう一度行います。すると、音階の第3番目の音であるE音は、前回と同じ作業をすると、正しくとられた音階上のD音の「純正な5度を二回繰り返したE音のオクターブ下」になります。ここでヴァイオリンに登場してもらいます。純正に調弦されたヴィオラのC音に対して、同様に純正に調弦されたヴァイオリンのE音が、純正な第三音になるのです。

さて、ここで比較してみます。CからスタートしてEに到着したとき、Cを基準にしてC→G→D(音階のD音)→A→E(音階上のE音)と純正な五度を積み上げたもの(の2オクターブ下)が、美しい音階を作りました。Cに対してこのEの周波数比をとってみると、
3/2×3/2×3/2×3/2=81/16 の2オクターブ下ですから、81/64
となりますね。

一方で和声を構成する自然倍音列から三度を計算してみると、C:Eは長三度ですから、4:5、すなわちC音を1とすると、E音は、5/4となります。この分母分子を16倍すると、
 80/64
という数値を得ることができます。あれあれ、旋律的にとった81/64と違ってしまいました。この差が、「和音と旋律の時の音程の差」となるわけです。(ちなみに、この差のことを「シントニック・コンマ」と呼びます。そしてこの音階の時の三度を「ピタゴラスの三度」と呼びます。)

というわけで、旋律と和音の時の音程の差を理解していただくための例をあげました。

開放弦を純正に合わせると、隣ではない弦同士は和声的には純正ではありません。しかし、旋律的には純正になるのです。これが、弦楽器の「おもしろさ」と「不思議さ」なんですね。