柏木真樹 音楽スタジオ

トップページ > Blog > 日記 > カリグラフィーと音楽〜〜模倣とイメージ

 カリグラフィーにハマっている生徒がいます。綺麗に書かれた文字は、それだけで芸術作品とも言えるほど美しいものです。中世の楽譜では盛んに使われていました(画像はこちら)。この生徒も、古い音楽が好きなので最初は楽譜の文字に憧れたのかもしれません。

 

 そんな生徒が、インスタグラムに「お手本」と「自分のもの」の写真を載せていました。まだ始めたばかりなので試行錯誤の連続だということですが、それを見てふと思いました。「この違いはなんなんだろう」左がお手本、右が生徒のものです。「G」を比べてみてください。輪郭をトレーシングしているので形自体はほとんど同じなのですが、やはり生徒のものは「素人臭く」見えます。その違いがなんなんだろうか、と考えてしまいました。

 

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  生徒に聞くと「違って当たり前。まだいくらも書いていないから慣れてないし、どのペンを使うかも試行錯誤だし・・・」だそうです。まず正確に模倣できる技術を習得しないと、そこから先を考えることはできない、というのがその主張でした。にやっと笑って、思わずツッコミを入れてしまいました。「それって、日本の音楽教育に毒されてる!」

 

 音楽の世界だけではないかもしれませんが、「まずきっちり弾くこと。それができてから音楽を作る」というのが日本の音楽教育だったと思います。私自身もそんなことを何百回も言われて育ちました(守りませんでしたけど/苦笑)。それが果たして音楽を学ぶ方法として正しいのか、というのが長い間の私の疑問でもあります。まず、メトロノームで正確に弾く、音程はピアノと合わせる、ゆっくりきっちり弾けたら少しずつ速くする。それが王道だとされてきたのだと思います。

 

 最初に基礎技術を覚えてから表現するべきという生徒の主張の趣旨は理解できます。しかし、イメージが後から付いてくるものであるかは疑問です。最初からイメージを持って作ることと、イメージを後回しにすることには大きな違いがあります。最初に輪郭をトレーシングする作業は、単に「書かれているものを上からなぞる」ことに過ぎず、そこには文字の形のイメージを作る作業は含まれません。結果的に、自分の中にイメージすることを放棄してしまうのです。メトロノームをかけっぱなしにして練習すると拍感が身につかないことは何回か書いていますが、これと全く同じことが起こってしまいます。

 

 もうひとつ考えてみましょう。

 

「芸術は模倣から始まる」(創造は、という言葉もあります)と言われます。これは簡単に言うと、「過去の作品を真似することでそのイメージを取り込む。たくさんのイメージを取り込むことで自分のイメージを作ることができる」という意味です。ですから、取り込む作業に「イメージを作る」作業が付随していなければなりません。だから画学生が絵を模写するときに、トレーシングするのではなく、自分の目で見てそのイメージを取り込んでから再現する努力をするのです。いずれにせよ、大切なのは「イメージを作る力を蓄える」ことなのです。

 

  サラサーテ最新号の次(87号)には、メトロノームの話を書く予定です。ちょうどタイムリーだったので、久しぶりにブログを更新してみました。

 

[ 2018/10/26(金) 15:53 ] 日記, 音楽的主張| コメント(0)
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