柏木真樹 音楽スタジオ

トップページ > Blog > クレモナレポート > ストラディヴァリ「San Lorenzo 1718」披露カンファレンスとコンサート

 日本のコレクターが所有するStradivari San Lorenzo。作られたのがちょうど300年前の1718年で、今年のストラディヴァリフェスティヴァルに合わせて「里帰り」しました。10月中は東京で行われるイベントのために再び日本に戻りますが、基本的には来年まで1年間、クレモナのヴァイオリン博物館に展示される予定です。それを期して、9月16日に博物館でカンファレンスと小さなコンサートが行われました。

ヴァイオリン博物館

ヴァイオリン博物館

 

 

 カンファレンスは、ヴァイオリン博物館内の第10展示室で行われました。この展示室は、2年前に3日間にわたってワークショップを行った思い出の部屋です(https://maki-music.net/blog/20160920workshop1/)。博物館の中でこの部屋だけが外から直接入ることが可能なので、この手のカンファレンスには必ずといってよいほどこの部屋が使われます。それほど大きな部屋ではありませんが、プロジェクターなどが常備されています。

 

 

 

 

 

 

 

プロジェクターに次々と資料が映されます

プロジェクターに次々と資料が映されます

 

 

 

 11時から始まったカンファレンスは、この楽器が里帰りするに至った経緯を説明した後、楽器本体の「謎」にせまる研究結果が発表されました。楽器の状態などが楽器を修復した時の写真などを使って解説され、構造や各パーツの状態などが説明されました。その後、この楽器の最大の特徴である「書かれた文字」についての解説がありました。

 

 

 

 

 

これは「こうした文字が書かれていたよ」というイメージ図。実際にはこの部分の文字は判読が難しい

これは「こうした文字が書かれていたよ」というイメージ図。実際にはこの部分の文字は判読が難しい

 

 

 

 この楽器には、ストラディヴァリの直筆と考えられている文字(Gloria et divitiae in domo eius)が楽器の側面に分割して書かれています。正面右側のサイドに書かれている「Gloria et divitiae」は文字としては見えなくなっていますが、反対に書かれた「in domo eius」ははっきり文字が残っています。これは旧約聖書の一節「Gloria et divitiae in domo eius et iustitia eius manet in saeculum saeculi」から抜粋されたもので、「栄光と富は神の家にいまし、神の裁きは永遠である」という意味です。ストラディヴァリはこの楽器を納品する時に、相手を称えた言葉を楽器に書いたのかなぁ、などと想像をたくましくしてしまいました。実際にはこの楽器は、一時ヴィオッティが使っていたと考えられており、フランスの王室でも演奏されていたと解説されています。

 

 

 カンファレンスは12時で終わり、場所をホールに移してコンサートです。奏者はスペインから来た若手(名前が・・・あとで追記します)。バッハ、パガニーニ、イザイというオールソロのプログラムです。技術的には自信がある人だと思うプログラムでした(パガニーニは4番が入っていたし・・・)。技術的にはかなり安定感がありましたが、目的は楽器の音だったので演奏を楽しむ、という感じではありませんでした。

 さて、問題の楽器ですが・・・

 調査のためにか、修復のためにか、楽器を開けたばかり? なのか、楽器の状態は不安定でした。まずチューニングが安定しない。最初のうちは、どんどんD線が下がる、E線がキックしてしまう、などのトラブルに見舞われていました。パガニーニの2曲めくらいからはそうした不安定感はなくなり、楽器が鳴りだしたように思います。最後のイザイは、細かいところも立ち上がりがしっかりした音像になって、名器の片鱗をうかがわせました。音質、音量については、意見がわかれるところかもしれません。良い楽器だとは思いますが、「ストラド」という名前を抜いてしまったら、最高の楽器だと思わない人もいるのではないかと思います。共振動が多く良く鳴る楽器でしたが、圧倒的なボリューム感はありません。ただ、楽器の状態が徐々に変わったことを考えると、数日弾き込んだ状態で聞きたかったのは確かです。

 クレモナにいると、こうした貴重な体験ができるのはとても幸せなことです。今回は他にもコンサートがあるので、楽しみにしています。

 

[ 2018/09/18(火) 16:21 ] クレモナレポート, コンサート, ヴァイオリン, 楽器| コメント(0)
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