今回は長逗留なので、食事についてはかなり心配がありました。日本からフリーズドライのスープやおつまみ的なものはかなりたくさん持参したのですが、基本的な食事である外食があまりに・・・だと、早々に参ってしまうかもしれない、と危惧していたこともあります。なにせ、小学生以来、朝食はがっつり和食、という私ですから、15泊に渡る滞在でどんなになってしまうか、かなり不安がありました。結果は・・・「まーーーたく問題なし」でした。日本から持参したものは、舌を休めるために大いに役立ちました。肉と乳製品に疲れた舌と胃腸を、和風の味がかなり癒してくれました。これがなかったら、かなり辛い2週間になったと思います。
いずれにせよ、今回は、これまでになくクレモナの「食」を楽しみました。
17日の到着して、高橋さんがまず選んでくれたのが「La Botte」という、ホテル(Hotel Astria)から歩いて3分ほどの路地の中にあるお店です。なんとなーく、活気がない。「昔は高い店で美味しかったのだけど、オーナーが変わったかな? しばらく来てなかったから」と、高橋さん。趣がある店内ですが、入店時(20時ちょっと前)にはお客さんは誰もいません。「ありゃ、これは期待はずれか」と一瞬思ったのですが、注文して15分ほどでお客さんが入り始め、21時前にはぎっしり。実はほとんどが予約で埋まっていたようです。ラッキーでした。
オーダーする時に、まず「ポルチーニ・・・」と呟く私ですが、メニューにない料理がありました。このあたりは、現地の人と行かないとだめですね。結局、きのこのソテーを前菜に、北イタリアの名物料理のタルタルを2皿めに、豚ロースのステーキにポルチーニを添えたものを3皿めに、と、かなりいびつな「食べたいものだけ食べる」メニューに決定。せっかくの初日ですから、ワインは大好きなBarolo。
結果的に、このオーダー、大正解でした。1皿めのきのこは、黄しめじ、ジロール、アンズ茸、ちっちゃいポルチーニなどが入ったソテー。濃厚なきのこの味ですが、あくまでフレッシュな感じ。付け合わせのポテトがふんだん(すぎて)で、食べ応えもあります。2皿目のタルタルはまぁまぁ。3皿目の豚肉は、ポルチーニ(おそらく乾燥もの)でふんだんに出汁をとった上に、生ポルチーニをかなり贅沢に使ったもの。初日からポルチーニ三昧でした。後にもう一度行ったのですが、まぁまぁ、という感じ。普通の料理は、特筆すべきものではありません。ただし、値段は高くありませんので、1回くらいなら行ってもよいかと思います。(このお店、後でランチに行った人は「はずれ」だと言っていました。ポルチーニのメニューがなく(恐らく書いてない)、他を頼んだそうですが「塩分が強くて・・・」と、食後にジェラートをぱくついているところに遭遇しました。)
今回泊まった「Astoria」は、街の中央ど真ん中、というところにあり、周囲にはたくさんの店があります。La Botte の他にも、幾つかのお店を紹介しましょう。
ひとつは、クレモナで最も予約が取れないアパート・ホテル、Locanda Torrianiの1Fにあるレストランです。このレストランも、予約の取れなさはクレモナナンバーワンです。
日本の大都市に住んでいる人と、レストランの予約の感覚が全く違うので、レストランの利用法を先に説明しておきましょう。
東京だと、人気のレストランは「2ヶ月先までいっぱい」ということもザラですが、クレモナのような田舎町ではそんなことはありません。予約は基本的には「その日」「数日後」という感覚です。それも、何かのついでに前を通った時に「今日の夜、4人で来るからね〜」「オッケー」でおしまい。時間も聞かれません。そもそも、レストランの営業時間は、早くても19時から、遅いと20時からですから、2回転を予定することがないのです。
イタリア人の外食は、基本的に遅い。20時から、21時からが当たり前です。そんなに遅くまで仕事をしているのかって? いや、そんなことはありません。それまでは「飲んで」いるのです。仕事が終わると、18時ごろからバールで友だちと飲んで喋って、20時になると家に帰ったりレストランに行ったりして食事、というのが、普通のパターンだそうです(もちろん、まっすぐ帰る時は早く帰ります)。ですから、レストランがバーとレストランの両方をやっている場合、「バー18:00〜20:00、レストラン19:30〜24:00」などと表示されていることもあります。こうした場合でも、バーのスペースとレストランが別の場合は、バーで最後まで飲むことは可能のところが多いですね。そして、「カフェ+バー」が別にあり、これは食べるものは出ても軽食程度で、ずっと開いているのが普通です。バールで飲んで、レストランで食べて、カフェで飲む、というのが、クレモナ人の「フルコース」です。実際に、日本人製作家の松下さんや永石さんでも食事の約束をすると、まず連れて行かれるのがバール。そこでビールやスパークリングワインを少し飲み(ちょこっとつまみを食べ)、それから食べに行く、という「日本と逆コース」が普通です。
ですから、食事の時の飲み方は明らかに違う。食事は、本当に「直時を楽しむ」のです。食事の時のワインの量は、よく飲む日本人の方が多いくらいで、イタリア人はひたすら食べてしゃべる。食事の前に飲むのは、あくまで食事を「食べたくなる」ように体を刺激して、おしゃべりをして親交を深めることが目的なのだと思います。Massimoさんに食事に連れていってもらったときも、わざわざ家に寄って(奥さんを連れて)そこでスパークリングを飲み、それから車でレストラン、というコースでした。
さて、途中が長くなりましたが、Locanda Torrianiの様子です。
今回、実はここに宿泊することを狙いました。朝食が美味しいという評判なのと、合宿がよく行われていて音を出すことに慣れている環境だからです。ところが、5月の時点ですでにいっぱい・・・とてもじゃないですが、まとまった人数が取れる気がしません。部屋はいろいろあって、自炊可能・2部屋・4人まで可、という部屋もあります。ですから、合宿やツアーなどでよく利用されているようです。
今回は、名古屋の生徒だったご夫婦が偶然この時期にクレモナに来る、ということで、ディナーを早い時点(1ヶ月前)に予約しました。「14人くらいがMAX」という予約で、希望者を募ったらいっぱいになりました。実は、高橋さんとお会いした最初の日(17日)に「ふらっと」寄ってみて「食べられる?」と聞いてみたのですが(高橋さんはオーナー夫妻と懇意)、「高橋、急に来て入れると思ってるのか?」とからかわれてしまいました。というほど、予約が取れないのです。実際、4回のクレモナ滞在(35日間)で、食べられなかったのはここだけです。(忙しいときのランチは別)
ここのお料理は、「洗練されたクレモナ料理」という表現が当たっていると思います。クレモナ料理はどちらかというと「田舎っぽい」のですが(また、それが嬉しくもあるのですが)、ここでは出される素材も料理法も、少しばかり凝っているのです。前菜のハム・サラミから、それを感じます。ハムはculatello(注)ですし、サラミ・クレモネーゼもここで食べるものが一番美味しい。パスタもかなり凝ったソースだったりします。以前食べたtortelli(注)も、軽めのクリーム系ソースがかかった上品なものでした。セコンドのお肉も、一つ時縄のものは出てきません。今回も野菜とクルミを使ったかなり濃厚なソースがかかった美味しいものでした。ドルチェもご覧の通り。私はお腹いっぱいで食べられませんでしたが(ドルチェが別腹じゃないんです/涙)、大好評でした。
(注)culatelloは、パルマの特産のハムです。エミリアロマーニャ州とロンバルディア州(クレモナ市がある州です)で規定通りに育てられた豚の尻肉を豚の膀胱に詰めて12ヶ月以上寝かせた生ハム。ポー川が送り込む湿度(クレモナも湿気が多い街です)がほどよい柔らかさを保ったハムを作り上げます。クレモナで作られるものではありません(指定された村だけ)ですが、クレモナでも食べることができます。最高のものは、クレモナではちょっと難しいみたいですが。
(注)tortelliは、イタリア北部のパスタで、「ラビオリに近い」と言えばピンと来るかもしれません。正方形や円形に切ったパスタ生地ので具材を巻き、ソースをかけたりスープ仕立てにしたりして食べます。具材はさまざまですが、チーズや野菜が普通です。かぼちゃの季節はかぼちゃが多いようです。
次回は、クレモナの伝統料理が有名な店たちです。