柏木真樹 音楽スタジオ

トップページ > Blog > クレモナレポート > ヴァイオリン博物館とクレモナ市内の製作者たちの展示会

 写真の整理が追いつかず、今回は写真抜きです。後から加えます。

楽器博物館正面。中は近代的で、とてもきれいです。

楽器博物館正面。中は近代的で、とてもきれいです。

 クレモナには、ヴァイオリン博物館があります。以前は「ストラディバリウス博物館」「バイオリン・コレクション」という二つの施設がヴァイオリン関係の展示をしていたそうですが、2012年に「バイオリン博物館」として統合されました。現在のヴァイオリン博物館がどうなっているかは、サラサーテ誌の特集を読んでください。ヴァイオリン博物館の情報はたくさんありますし、こちらに来たら日本人の担当者から、じっくりと解説を聞くこともできます。この上、僕からレポートして面白いことはほとんどありません。面白かったのは、博物館の建物が「個人が整備してクレモナ市に寄付した」という話でした。ストラディバリウスの製作の様子が、使っていたさまざまな楽器の型や工具と一緒に、現在でも見ることができるのも、それを価値あるものとして残そうとしてくれた個人の力です。そうした歴史を知ることは、ひるがえって僕たちの「すべきこと」「考えること」を示唆してくれるとは思います。

 博物館の性質上、楽器はすべてガラスのショーケースに入っている。僕は、新しい楽器を見たときに、見たイメージから楽器がなっている姿をイメージします。「見ただけで楽器の音が聞こえる」と言うと格好良すぎるのですが、それが楽器を「見る」ことだと思ってきました。でも、ショーケースに入った楽器からは、僕には音は聞こえません。もっとたくさんの楽器に触れてきた人なら、それでも楽器の音を感じることができるのかもしれませんが、僕にはその能力はありません。展示物を見て、解説を聞いて、さまざまな思いをはせることはできても、音を感じることとは違う。今回は、展示物の音を聞くことができなかったので、それは次回にとっておこうと思います。

 市内にはたくさんの製作者がいます。登録されている工房は、現在約120。かなり減ったということですが、それでも、狭い市街を歩くと、たくさんの工房を見ることができます。路地裏に入ると、さらに、あちこちに工房があり、クレモナがヴァイオリン製作の「メッカ」であることを感じることもできます。今回、訪れることができた工房は、クレモナ全体の数から考えると1割ほどでしかありませんが、それでもさまざまな製作者と触れ合うことができて、とてもとても興味深いものでした。何をどのようにレポートするかは、帰りの飛行機の中でじっくり考えますが、そんな中で、この期間に行われている楽器の展示会について、すこしばかりレポートしようと思います。

 モンドムジカの様子で書いたように、モンドムジカに出展していない製作者たちが、いくつかのグループにわかれて展示会を行っていました。大きなものは「Ali(Associazione Liutaria Italiana/イタリア弦楽器製作家協会)」が筆頭です。このグループに登録しているLiutarioは79。出展されていたのは、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロを合わせて30です。
(注)Liutariaはイタリア語で「楽器工房」。そう思っていたのですが、会話を聞いていると、実際には、「liutai」(こちらが「リュート製作者、転じて、楽器製作者、メーカー」)の意味でも使っているようです。製作学校の先生をしているMaestroが「良い楽器製作者になるためには」という意味で「liutario」を使っていました)と同じように使うことも多そうです。そのあたりのニュアンスは、もっと馴染まないと正確にはわからないと思います。

 Aliは、モラッシーという「クレモナ中興の祖」の流れをくむ人たちが多く集まっているところです。クレモナの歴史については、別にまとめますが、1950年代の「クレモナが貧乏だった時代」に、多くの弦楽器を製作して弟子を育てたモラッシーは、クレモナでも多くの製作者の尊敬を集める存在です。モラッシーが楽器を販売することでクレモナの製作者がしられて経済状況も好転し、1980年代には「クレモナ黄金期」を迎えたのです。そうした意味で、Aliに集うLiutaiには、モラッシーを受け継ぐ、発展させる、という意識がある人が多いのも頷けます。

 2日に渡って出展された楽器を弾いてみましたが、正直に言うと、期待したほどの「爆発」はありませんでした。最初の印象は「楽器が二つのグループにわかれている」という感触。悪言い方をすれば、2通りの音しかないように感じたのです。最初に弾かせていただいた時にはあまり時間がなかったこともあり、その印象を拭えるような出会いはありませんでした。二日目は、ややじっくりと弾いて(聞いて)、ということができたので、少しばかりイメージが改まりましたが、それでも、もう一度聞いた時に「この人の楽器だ!!」という強烈なイメージがある楽器はありませんでした。しかし、現在のイタリアの製作者の方向性のようなものが、ある範囲ではつかめたと思います。二日とも、クレモナで工房を開いている高橋さんに、あれこれと説明していただくことができました。(クレモナの日本人製作者については改めて)ほんとうに、ありがとうございました。

 もうひとつ、クレモナしないで若手の製作者が展示会をやっていました。そちらは、市内の写真とともに、改めてご報告します。


 

[ 2015/10/01(木) 18:03 ] クレモナレポート, 日記| コメント(0)
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