柏木真樹 音楽スタジオ

トップページ > Blog > クレモナレポート > クレモナレポート2/楽器の変化を見るのは楽しい/見つけた楽しみな若手たち

 今回で7回目のクレモナですが、毎回のように訪問する工房もあります。「来てね」ということもありますし、押しかけることもあります。いずれにしても、続けて訪れていると、さまざまな変化を感じることができることが大きな楽しみです。製作者は良い楽器を作るために日夜努力していますが、その結果の現れ方はそれぞれです。スタイルが完成し、どの楽器も同じように高いクオリティで作れるようになるまでには長い時間がかかるのが普通ですので、その間の変化を見ることも楽しいのです。いくつかの例をあげてみましょう。

1)ALIの展示会で出会ったある製作家の楽器

 昨年のワークショップに楽器を出していただいたある製作家の楽器ですが、大きく変化していてびっくりしました。この製作者の楽器は、コンサート用のセレクトで落とした楽器だったのですが、ワークショップ後「何が悪かったの?」と聞かれました。演奏する側にとっていくつかの気になる点を指摘し、改善するための可能性を何通りか議論しました。今年、ALIの展示会で再び出会った楽器を弾いてびっくり。昨年のものより振動、響きが増え、指を押さえるストレスもぐっと減っているのです。楽器をよく見ると、セットアップだけでなく、製作段階でも昨年のものとくらべてさまざまな工夫がされていました。とても弾きやすくよく鳴る楽器に変化していてびっくり。時間のタイミングが合わずお会いできなかったのですが、「とても良くなっていたよ!」とメッセージをしておきました。来年もとても楽しみです。

2)毎回お邪魔する女性の製作家 (1)

 クレモナには女性の製作家もたくさんいます。私がクレモナに行き始めた頃から毎回のようにお邪魔しているある女性の製作家の楽器も、行くたびに良くなっているひとり。一番最初に工房にお邪魔したときには、「セットアップにこだわるのは意味があるのか?」とストレートに聞かれました。実際に、クレモナの製作家の中には、楽器本体を組み立てただけで楽器店に発送する人もいます。こうした場合、製作者が丁寧にセットアップしても、バラして送ってしまうために、実際に購入する人が見るときには「楽器店のセットアップ」になってしまうのです。このような事情があることはクレモナの製作家は皆さんご存知で、だから「セットアップに時間を割くなら製作に充てたい」と思うのも自然なことだったのです。しかし、演奏者が弾きやすい、望むような楽器にするためにはどうしたらよいか、ということを徹底的に話をさせていただいたら、しっかりと理解してくださいました。セットアップをあれこれと変化させて音の状態が変わるのを見て、この方も「楽器が弾ける状態になること」の大切さをわかっていただいたのだと思います。昨年のワークショップで演奏者の要求に応えるセットアップを体験できたことも大きな要因だったと思います。それ以来、行くたびに少しずつ「弾きやすい」楽器になっていきました。今回は彼女にとって新しいモデルの楽器を見せていただいたのですが、素晴らしい出来栄えで、さらに突っ込んだ議論をすることができました。今後も注目していきたい製作家です。

3)毎回お邪魔する女性の製作家(2)

 とても優しくて熱心な製作家さんですが、前回の訪問まで「いまいち」感がどうしても無くなりませんでした。原因はいくつか考えられましたが、セットアップだけの問題ではないように思っていました。それでも少しずつは改善していたのですが、キラリと光るものが感じられなかったのです。ところが、今回はとても嬉しい「びっくり」がありました。楽器の振動がとても増え、共鳴だけでなく共振動も十分に感じられる楽器になっていました。音を出した瞬間にびっくり。思わず「You did good job!」とにっこり。この方の楽器は同行している写真担当のYさんもいつも聞いていたのですが、工房を出てから「とっても良くなってましたね」とにっこり。製作に関する議論も身のあるお話ができたと思います。これからももっと良くなってほしい、と、心から思いました。

4)すでに有名な製作家ですが毎回が「勝負」

 クレモナに通うようになった当初から「いい楽器だな。だけど・・・」という感じだった製作家さんです。毎回、楽器の感想をじっくり述べて、足りないと感じることを指摘して来ました。セットアップに関してはかなり改善されて、「どや」という感じで楽器を手渡されていたのですが、5月に訪れたときに「これは自信がある。弾いてみてくれ」と言われて試奏して、その音色に「これはいい楽器ですね。私の弟子になら推薦できる」と思わず失礼なことを言ってしまいました。それでもとても喜んでいただいたのですが「じゃあ、MAKIは使う?」と聞かれたので「うーん。それはちょっと」と言ったらとても悔しそうなお顔(笑)。僕が使いたくなる楽器を作るぞ、と言ってくれました。これからも楽しみ。

5)まだ無名の若手

 仲良くなった若手製作家のひとり。昨年偶然工房にふらっと入って話をして意気投合したのですが、とても面白い楽器を作っています。今年の楽器は、確実に昨年よりもパワーアップしていました。一度、食事を一緒にしたのですが、セットアップだけでなく、製作やクレモナの話で盛り上がりました。考え方がとてもしっかりしているので、これからがとても楽しみです。

6)注目の若手はとんでもない楽器を作り始めている

 私がクレモナで最も評価している製作家のひとり。松下さんやレヴァッジさんのように、すでに国際的な評価が定まっている製作家ではありませんが、今一番注目されている若手製作家。昨年の楽器は、まだ出来上がりに差があったのですが、今年はモデルに関わらずとても良い出来でした。はっきり言って、有名なモダンイタリーの多くよりずっと良いと思います。これからもっと人気が出てくるでしょう。

7)学生さんの中にも期待できそうな人が

 学生の楽器の展示会にも行きました。その中に、とても期待できる楽器を作っている人がいました。また、ワークショップに来てくれた学生の中にも、楽しみな若手がいます。こういう人たちを追いかけるのも楽しみです。


 今回も、初めてお話をした製作家も何にもいました。その中には、とても良い楽器を作っている方もいました。まだまだ、クレモナ通いは続きそうです。


[ 2017/10/17(火) 20:31 ] クレモナレポート, ヴァイオリン, 楽器| コメント(0)
(newer)|blogtop|(older)
(newer)|blogtop|(older)