柏木真樹 音楽スタジオ

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06
May.
2007

年に一度の大きな発表会が終わりました。会場には、お会いしたことがない方がたくさんいらっしゃいました。出演者の関係者がほとんどだとは思いますが、ウェブを見て来場された方もいらっしゃるのではないでしょうか。どうもありがとうございました。大きな発表会は、今年で四年目になります。年々出演者も増え、賑やかになっていますが、生徒さんたちは皆さんそれぞれに努力して、とても収穫の多いステージになったのではないかと思っています。

実質5時間の演奏時間でしたが、これだけの規模の発表会を行うためには、幹事役の生徒さんをはじめとしてたくさんの人に支えられて、初めてできることです。感謝の気持ちで一杯です。そして、毎年思うのですが、多くの熱心な生徒さんに恵まれて、私はとても幸せものだと思います。これからも、もっともっと皆さんのお役に立てるように努力したいと思います。

プログラムを、以下に引用いたします。

1)モーツァルト クラヴィーアとヴァイオリンのためのソナタK.301

ヴァイオリンを始めて4年目になるIさん。昨年暮れにアズールに入団するなど、相変わらず意欲満々で、今回はモーツァルトの中期のソナタに挑戦です。この頃のモーツァルトは、器楽奏者としても活躍していた頃で、ヴァイオリンのためのソナタもたくさん遺しています。二楽章構成のこのト長調のソナタも有名で、明るく軽やかな佳曲です。発表会直前に筋トレをやって冷や汗をかいたIさんですが、モーツァルトの若々しい楽しさを聞かせてくれると、楽しみにしています。

 

2)モーツァルト 12の小さな二重奏より

入門して半年になるHさんは、今回初登場。初学者がよく演奏する有名な曲集から、今回は表題の三曲を取り上げます。有名なフレーズを初級者用にアレンジしたこの曲集は、いわば「いいとこどり」のもので、モーツァルトに最初に触れるのに適した曲ばかりです。ピアノやテニス、語学など、興味の対象が多岐にわたっている「行動派」ですが、最近はヴァイオリンの練習に熱心に取り組んでくれています。目標を高く、頑張ってほしいと思っています。

 

3)シューベルト ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ 第1番 ニ長調

入門二年目のOさん。今回は、シューベルトの佳曲に挑みます。やや軽めのソナタであるこの曲ですが、シューベルトらしさが随所にみられ、意外に難しく、悩みの尽きない曲でもあります。「曲を弾くより基礎をしっかりやりたい」と言ってこられたOさんですが、発表会にもとても積極的で、去年の秋に引き続いての登場。いろいろな体験をして、ヴァイオリンを弾く楽しみ方を広げてほしいと願っています。

 

4)バルトーク 44の二重奏より

長い間の夢だったヴァイオリンをやっと始めることができたFさん。レッスンを始めてすぐに体に問題が発生。持ち方やボウイングを工夫し筋肉トレーニングをして、ようやく本格的にレッスンができるようになって半年になりました。自分に厳しく「大丈夫でしょう」と言っても「まだまだです」といつも答える頑張り屋さんです。今回取り上げるバルトークは、ヒンデミットなどとともに初学者の指導法にも熱心に取り組み、ピアノの「子どものために」など、やさしい名曲をたくさん書いています。

 

5)メンデルスゾーン ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 より第一楽章

高校生の頃、スコアを買って自分で楽譜を作ってさまざまな名曲を練習したというUさんにとって、思い入れの深いこの曲。秋のコンチェルト発表会で全楽章を弾く予定です。今回は普及されている解釈ではなく、原典に近いベーレンライター版を用います。美しい旋律で知られるこの曲ですが、メンデルスゾーンの違った一面が楽譜を見るとよくわかり、レッスンをしている私にとってもとても面白い経験になりました。伴奏は、お姉さんが大阪からかけつけて下さいました。

 

6)モンティ 「チャールダッシュ」

「発表会で何を弾きたい?」との問いに「チャールダッシュかスケルツォ・タランテラ」と答えたS君。思わず凍ってしまった私に「無理ですか?」。どうなることかハラハラしていたのですが、なかなかの善戦ぶりです。学生オーケストラでヴァイオリンを始め、私のレッスンも二年目になりました。練習で考え過ぎて勘違いをしてしまう迷走ぶりをいつも指摘されているのですが、弾くことへの意欲は充分で、楽しい演奏をしてくれると思います。曲は、フィギアスケートの「真央ちゃん」が使ってますます有名になった、解説不要の名曲ですね。

 

7)マザース 小さな二重奏op.85 より第4番

「もっと頭を使って」と言うと「同じことをいつも学生に言っています」と、普段と逆の立場で私の指摘を受けているSさんは言語学の先生。先にアズールに入団したチェロのパートナーのお誘い(?)で入団し、私のレッスンを受けるようになって今回初登場。「出直してきます」などと弱気な発言が多いのですが、一年前とは別人のようにしっかりした音が出るようになってきました。マザースはヴァイオリンの指導者として有名で、120曲に及ぶエチュードや初学者用の曲集などをたくさん遺しています。

 

8)モーツァルト クラヴィーアとヴァイオリンのためのソナタK.454

モーツァルトの後期の作品は、器楽の曲を中心に書いていた時期と違って、どの曲にもオペラや歌の要素がちりばめられています。演奏会でもよく取り上げられる大変有名なこの曲も、キャラクターの違った登場人物があちこちから飛び出してくるような面白さがあります。レッスンを重ねるうちに、その面白さがわかってもらえたようです。「後は、イメージ通りに弾ければいいんですけど」との本人の感想ですが、本番は充分楽しんで弾いてほしいと思います。

 

9)ラヴェル 「ツィガーヌ」

体を痛めて2年ほど前にやってきたNさんは、現在音大で学んでいる二年生。体の使い方や基本的な奏法の理解がなかったのですが、最近、よく考えて練習することができるようになってきました。とても素直(natural)でまっすぐに話をするので時々驚かされることもありますが、好きな曲や演奏を熱っぽく語る気持ちを忘れないでほしいと思います。曲は、イザイに捧げられたさまざまな技巧を駆使した難曲で、ヴァイオリンを弾く人がみな憧れるものでもあります。

== 休憩 ==

10)ヘンデル ヴァイオリンソナタ ホ長調

公開講座がご縁でレッスンを始めたSさんもレッスンが3年目。今回は、チェンバロとの演奏に初挑戦です。「全然上手くなってない」が口癖ですが、成長して気がつくことが増えるとそんな風に感じるようになるもの。理解力も音も、順調に伸びていると思います。昨年からアズールにも参加して、活動の幅を徐々に広げているところ。ヘンデルのソナタは、学習者がよく演奏するものですが、チェンバロとの演奏で、もう一段成長してほしいと思います。

 

11)ヴィヴァルディ ヴァイオリンソナタ op.2 より第9番

「四季」やイ短調の協奏曲でおなじみのヴィヴァルディですが、ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタやトリオソナタなど、あまり知られていない名曲もたくさんあります。候補に挙げたいくつかのソナタからこの曲を気に入って選んだSさんは、ヴァイオリン以外の楽器と合わせるのは初めてです。まだ楽譜と基本的な運動のイメージが弱いのですが、この曲のイメージはかなり明確に作れたようで、今日までに「理想のテンポ」で弾けるようになれば、面白い演奏を聞かせてくれると思います。

 

12)ヘンデル ヴァイオリンソナタ ニ長調

チェンバロとのアンサンブルがやりたくて発表会にエントリーしましたが、直前に体を故障して(ヴァイオリンが原因ではないのですが)充分な練習時間が取れませんでした。レッスンでは丁寧にメモを取り練習も一生懸命なNさん。日々の練習の目的をもう少し考えてできると、言われたこと/練習したことがもっと身に付くはずです。ヘンデルのこの曲は、学習者の多くが一度は弾く曲ですが、今回はベーレンライター版を使用します。聞き慣れたものと少し違いがあるかもしれません。

 

13)ヘンデル 「シャコンヌ」

昨年九月に大手の教室から「転校」してきたMさん。練習熱心で自分で考えて工夫をすることにも熱心で、レッスンの場で驚かされることもしばしばです。レッスンを初めてまだ1年未満なので私の思考法を理解していただけたとは思っていませんが、新しい発想を上手に取り入れていただきたいと思います。曲は、他の生徒と一緒に試奏したときに「これがやりたい」と重なったもの。ヘンデルはチェンバロ原曲のシャコンヌ(三拍子の変奏曲)をたくさん遺しており、これもそのうちの一曲をヴァイオリン用にアレンジしたものです。

 

14)プレイエル 12の二重奏 op.48 より第1番

仕事に子育てにと大車輪のNさん。なかなかレッスンの時間が取れない上にトラブル続きで熱意が十分に活かせていないのが残念ですが、何とかエントリーすることができました。今回のテーマは二重奏で、一緒に弾いている私やSさんの弾き方からできるだけたくさんのものを得てほしいと思っています。プレイエルはピアノの楽器で有名ですが、18世紀最後から19世紀初頭にかけて活躍した音楽家です。教育者としても有名で、学習者用の小曲を数多く残しています。ピアノで言えば「ソナチネ」アルバムに当たるようなものです。

 

15)タルティーニ 6つのカノンより 第一番、第二番

××をしているTさん。練習も緻密でしっかりしています。大学から始めたヴァイオリン、私がレッスンを始めて約1年で驚くほどの進歩をとげました。勤務の都合で6日に一回のペースでレッスンをしているので普通よりレッスンの密度が高いことは確かですが、得たものはたくさんあると思います。曲は、2パートで一枚の楽譜に書かれていて、輪唱のように始まりをずらして演奏します。ある種の「遊び」ですが、とても楽しく美しい曲になっています。

 

16)クープラン トリオソナタ ホ短調

事務処理能力と縁がない私に代わって生徒関係の作業を引き受けてくださっているYさん。アズールのまとめ役もこなしているのですが、会社が忙しく完全に「週末プレーヤー」の状態が続いているのが残念。しかし、アンサンブルが大好きで、今回の発表会も憧れのHさんとチェンバロとのデュエットを選びました。クープランは17世紀生まれのフランスの作曲家で、クラヴザン曲集やさまざまな合奏曲(concert)で有名です。イタリアバロックと違う幻想的なイメージが見えてくると面白いと思います。

 

17)バッハ ヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ BWV 1019

何事にもまじめに取り組むOさん。今回は「この曲が好きです」と選びました。よく演奏される有名な曲であり、難曲でもあります。昨年はバッハの二台のコンチェルトでしたので、二年続けてバッハと格闘することになりました。私はバッハの音楽に対して信仰のような意識はありませんが、それでも取り組むには大きな意味があるものだと思います。全五楽章からなる大曲ですが、本来の3楽章はチェンバロのみのもので、今回は割愛します。

 

18)コレッリ トリオソナタ op.5 より第7番

「バロックが弾きたい」といつものように言っていて、今回の曲も半年以上前から「これを弾きたいです」と、高価なファクシミリ版の楽譜を取り寄せて持ってきました。人気の高いチェンバロとのアンサンブルですが、その熱意を買って、チェンバロと二度目のエントリーです。Yさんに「上手になったね」と言われた何事にも前向きなKさんですが、レッスンでの指摘がもう少し積み重ねになると、もっと良い演奏ができるようになるでしょう。チェロのSさんは、アズールに入団して3年目。すっかりおなじみになり、今回もKさんのサポートをお願いしました。

== 休憩 ==

19)ダンクラ 「ねぇ、聞いてちょうだい、ママ」変奏曲

私が名古屋に通い始めて2年半がたちました。4人でスタートした名古屋教室は、今回お休みのSさんを入れて5人。わざわざグルメツアーを企画するほどチームワークの良い、愉快な仲間たちになりました。毎回マスタークラスのような状態で「弾けないけど人の悪いところはわかる」と、自分たちで言い合うまでに成長(!)いえいえ、皆さん、本当に進歩しています。4人のアンサンブルで発表会に出ることは当初からの目標でしたが、意外に早くそのチャンスがやってきました。ダンクらは19世紀にパリで活躍したヴァイオリニストで、イタリアオペラのアリアを変奏曲に仕立てた「エア・ヴァリエ」が有名ですが、その他にも、パリ音楽院で教えていた頃に作った学習者用の佳曲があり、この曲もその一つです。技術的にかなり高度でやや「背伸び」の感じがあり、指揮なしで合わせる難しさもあるので大変だったようですが、自主練習や荒木さんのレッスンを受けたりして練習を積んできました。四人のチームワークがお楽しみいただければと思っています。なお、名前の順序は、そのままステージ下手から並ぶ順序になっています。

 

20)マザース 二台のヴァイオリンのための小ソナタ op.38 より第1番

「野球少年だった」というYさんも他の教室からの転校組です。主にHさんのレッスンを受けていて、いろいろなことが理解できるようになってきました。練習やイメージがやや筋肉系だったのですが、音楽のイメージをどんどん広げていけるようになると、ヴァイオリンを弾くことがもっと面白くなってくると思います。今回は、出張から当日戻ってきてそのまま駆けつける予定です。そのために、順序が変更になる可能性がありますが、ご了承ください。

 

21)バッハ 無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ 第一番

私の「30倍」(苦笑)は高速回転する左手と自分のイメージだけで「弾き散らかしていた」I君。レッスンを始めて2年目になり、少し練習法や楽譜に対する取り組み方が変化してきました。ようやく練習の意味を考えられるようになって来たのかな、と思っています。ようやくスタートラインにたったところ。演奏家になるためにはまだまだやらねばならぬことがたくさんあります。曲は、解説不要の名曲ですが、今回はあえて1ヶ月と期限を切って取り組ませました。どのくらい成長しているのか、楽しみです。

 

22)イザイ 無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ 第二番

今回もわざわざ大阪からかけつけてくれました。年ごとに音楽的にも人間的にも成長が感じられ、演奏を聴くことが楽しみです。音大という特殊な環境で周囲とのギャップに悩むこともあるようですが、自分に自信を持って歩んでほしいと思っています。曲は、前世紀のヴァイオリンの名手の手になる、技巧を駆使した6曲の無伴奏ソナタの第二番です。始めてお聞きになる方は冒頭で「おや」と思われるかもしれません。その後も、おなじみのテーマが登場します。

 

23)モーツァルト 「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」
      バーバー  弦楽のためのアダージョ

昨年、エルガーの弦楽セレナーデで成長の跡をお見せできたアズールですが、今回は難曲二曲に挑戦です。二曲とも一筋縄ではいかない曲ですが、できるだけ妥協せずに練習を重ねて来ました。あまりにもポピュラーになってしまった「アイネク」ですが、モーツァルトの最晩年に生み出されたこの曲には、オペラを感じさせるものがたくさんあります。少し新しいイメージを感じていただければ、と思っています。バーバーのこの曲も、映画やテレビで頻繁に用いられているので、一度は耳にしたことがあると思います。

 

【ご挨拶】

本日は、お忙しい中、私どもの発表会にご来場くださいましてありがとうございます。毎回、半分以上の生徒が出演できない状態ですが、それでもこれだけのプログラムになってしまいました。長丁場ですが、最後までお楽しみいただければ幸いです。

昨年の発表会から今日まで、約10人の新入生が増えましたが、若い世代ほど体に問題を抱えているように思います。立ち方、座り方、歩き方、腕の上げ方など、日常生活で当たり前に使う動作が不自然な状態で入門してくる生徒が増えているのです。楽器の演奏には体の運動が必要ですから、自然とこのような状態を改善するように指示することになりますが、なかなか時間がかかるのが現状です。私一人でどうなるものではない、大きな社会的な問題なのだろうと思います。体のことだけでなく、思考法にも同様の危機感があります。音楽を本当に楽しむためには、多くのものを柔軟に感じる感性と自由な発想が必要ですが、社会全体が逆方向に向かっているように思えてなりません。こんなことを書いたのは、自分がやっていることがどのような意味があるのかということを、発表会の前にはいつも考えさせられるからです。

とはいえ、多くの生徒さんたちが私たちを頼りにしてくださっていることは、私たちにとっては大きな幸せです。これからも、少しでも生徒さんたちのお役に立てるように、研鑽を積んで行きたいと思っています。

最後になりましたが、今年も、チェンバロを快くお引き受けいただいたYさんに、こころより御礼申し上げます。そして、アンサンブルをお手伝いしていただいたSさん、Wさん、Nさんに、深く感謝いたします。

2007年5月5日 柏木 真樹

[ 2007/05/06(日) 00:00 ] コンサート, レッスン| コメント(0)
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