柏木真樹 音楽スタジオ

トップページ > Blog > コンサート > ヒラリー・ハーン演奏会@トッパンホール

ヒラリー・ハーンの演奏会に行きました。トッパンホールのヴァイオリンシリーズです。二月に聞いたテツラフと同様、生徒がチケットを取ってくれました(thanks to Sさん)。人気沸騰のヴァイオリニストらしく、チケットがなかなかとれないそうです。全く聞いたことがなかったのですが、先入観なしに聞きました。

プログラムは、

  • イザイ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタNo.1
  • エネスコ:ヴァイオリンソナタ第3番
  •    = 休憩 =
  • ミルシテイン:パガニーニアーナ
  • モーツァルト:クラヴィーアとヴァイオリンのためのソナタト長調K.301
  • ベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ第三番
  • アンコール:「マドリガル」「三つのオレンジ 〜 行進曲」

まず、左手のテクニックの安定感、右手の柔軟性に驚かされました。右手は、腕に一本芯が通っている状態で、しなやかさがあります。そのために、弓がヴァイオリンにしっかり張り付くことができ、どのような体勢でも、また、細かい運動になっても、しっかりした芯のある音がします。一緒に聞いた生徒が「肩甲骨ばっかり見ていました」と言っていましたが(苦笑)確かに、腕の使い方をじっくりと見たい気持ちもわかります。(ただ、あの弾き方では、手首を痛めるのではないか、と、余計な心配をしてしまいました。かなり強靭なんでしょうが、レイトスターターは真似をしない方が良いと思います)

前半二曲とミルシテインは、ハーンの長所が出た演奏だと思いました。恐ろしく安定した左手に、ハーン「弾きたいように」自由に運動する右手、その結果、聴く人をハーンの演奏に引きずり込むような演奏でした。

私にとっては・・少々疲れた、というのが本音です。原因は、ヴィブラートにあると思いました。

ヴィブラートの大きさ、速さは多彩なのですが、それに伴って起こるプレスや弓の速さの変化とのバランスが、ほとんどぶれないのです。つまり、音量や音の硬さ、柔らかさ自体の変化が多彩でも、ある意味で「均一な音」の集合体になっています。おそらく、ハーン自身は「それがヴァイオリンの音なのだ」と考えているのだろうと思いますが、好みの問題でしょうね。カラヤンが好きか、ノリントンが好きか、という違いかもしれません。

モーツァルトとベートーヴェンは・・久しぶりに、ペータース版を聴いた気分です。これも、好みとしか言いようがないのですが、非常に違和感がありました。

・・という感想をある生徒にしていたら、こんな答えが返ってきました。「ハーン自身が、『自分自身の演奏に序列をつけられるのはいやだから、決してコンクールにでない』と、かなり小さな時から言っているそうです。だから、コンクール歴がない。古典のものについては、『いわゆる古典奏法などを学ぶつもりはない。演奏は、演奏家が責任を持つものであり、演奏家が感じるように演奏すべきであるから、作曲家が考えることではなく、自分が感じるままをお客さんに聴いてほしい』とはっきり言っています」

なるほど、と思いました。カール・フレッシュの言葉通りですね。モーツァルトを、完全にこのように演奏したものを聴くのは、本当に久しぶりのような気がします。確かに、ハーンが好きな人にはたまらない演奏だと思いますが、どちらかというと「モーツァルトが好き」である私にとっては、少々、好みからはずれているように思いました。

いずれにしても、また、凄いヴァイオリニストと出会った気分です。

[ 2006/06/07(水) 00:00 ] コンサート| コメント(0)
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