柏木真樹 音楽スタジオ

トップページ > Blog > トレーナー > 掲示板回答その3
29
Dec.
2007

掲示板回答から、興味深いものやためになりそうなものを転載します。

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> チューニングを平均律でするというのは他の楽器との関係でしょうか?

 他の楽器との関係/調性の問題、です。

あちこちで書いていますが、平均律にチューニングすることは、耳ではほとんど不可能です。「ほぼ平均律」に合うだけです。ただし、純音ではなくヴァイオリンなどの場合、さまざまな響きの特性によって、この「ほぼ」という間隔は非常に微小な範囲に入ります。純正の響きは理解しやすいのですが、それを「ほんの少し」狭くすることで経験を積み、平均律「らしく」チューニングができるようになる人がほとんどでしょう。もちろん、私も「平均律の周波数比を判断する」ことは全くできません。長い時間をかけてうなりや響きを聞きながら合わせると、五度であれば「ほぼ正確に」平均律に合わせられますが、それも「これが気持ちがよい」からではなく、「経験上このくらいの気持ち悪さが平均律である」ということを知っているからできるだけです。

平均律にチューニングをすると、言われるように共鳴音を使ったピタゴラス進行を楽器の響きを用いて作り出すことが「難しく」なります。つまり、ピタゴラスの進行を「響きに頼らず」再現できる能力が必要だ、ということになるのですね。だから「スケールの練習をしなさい!」なのです。書かれているところの「ジレンマ」は、そうした理由で「解決できない/解決する必要はない」ものです。

 

> また、エロイカ冒頭の和音を純正でとるとしたら、バイオリンの高いEs、Bに他の楽器も合わせてとるべきでしょうか?

いい加減に書くと、あちこちからつぶてが飛んできそうな話題です(苦笑)。あくまで私個人の考え方だ、ということでご了解ください。

現代の楽器は、基本的に「すべての音を出すことができる」ものです。ですから、古典的な楽器(音に制約があるナチュラルな管楽器など)が使われていた時代の作品を、作曲家の感覚だけで解決しようとすると訳がわからなくなります。詳細を書き始めると大変なので簡単に済ませますが、実際にはオーケストラがチューニングをした後の弦楽器のG(これは、Aから平均律でとられたものであるとします)を基本にして、和音ができるだけ純正になるように各楽器が音程を調整すべき、と考えます。Gが第三音である、という点で、これは非常にストレスフルな作業です。質問を読む限り、弦楽器の音程構造はお分かりなようなので簡単に済ませますが、「純正に合わせることで何調でもピタゴラスの音律を再現できる弦楽器を平均律にチューニングして、そのGを和音の第三音にそのまま使う」という流れになるからです。(仮に、金管楽器に制約があり、Esが固定されているとすれば、結論は異なります。)

 

> 指揮者は吹奏楽を中心に活動されています。順次進行の旋律を純正律でとらせることは稀ですが、分散和音型の旋律を純正律でとらせることは多いです。例えばエロイカ第一楽章のチェロによる第一主題です。純正律の音階は不自然なのはわかります。分散和音の旋律に純正律を適用する場合はどうでしょうか?

これも大問題(笑)。私は昔、「分散和音を練習する時は、主音をずっと頭で鳴らしておきなさい」と習いました。今考えると噴飯ものですが、一時期それを信じていました。分散和音を旋律的に取るか和声的に取るかは、「場合による」としか言えません。テーマになっているエロイカのチェロは、私も和声的に取らせると思います。理由は、音の構造です。よーするに、「何の音でできているのか、その旋律が何を意味するか」ということです。ただし、これは私の意見であり、妥協しようがない反対意見も存在します。

 

> 弦楽四重奏の場合はチューニングはどうでしょうか?

 ある限られた範囲であれば、ミーントーンの五度を用いるのが良い場合があります。五度は純正になりませんが、ほぼ許容範囲です。

[ 2007/12/29(土) 00:00 ] トレーナー, レッスン, ヴァイオリン| コメント(0)
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