柏木真樹 音楽スタジオ

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今年もやってきましたモンドムジカ

今年もやってきましたモンドムジカ

 

 モンドムジカは、クレモナ最大の催し物です。今年は9月30から10月2日までの3日間、クレモナの市街地から車で5分ほどの巨大な展示場で行われました。モンドムジカ開催中は、ホテルの宿泊料も普段の2倍くらいになるのですが、それでも市街地のホテルは3ヶ月前からほとんどいっぱいで、「車で15分」なんていうホテルしか空いていない状態になります。今年は、5月に目一杯(クレモナに行った全員分)を仮予約しておいたのですが、それでも30日の宿泊は取れず・・・裏口ルートで確保してあったホテルにようやく泊まることができました。

 

 

 

 

入り口。正面が招待、取材などの受付。右に回ると一般のチケットが買えます

入り口。正面が招待、取材などの受付。右に回ると一般のチケットが買えます

 

 

 

 モンドムジカの雰囲気は、ここ数年でかなり変化したようです。私は2度目なのですが、それでも昨年とはかなり雰囲気が変化しました。最大の変化は、弦楽器の祭典ではなくなりつつある、ということです。

 

 

 

 

 

 

場内の案内図。パンフレットにも詳細な案内があります

場内の案内図。パンフレットにも詳細な案内があります

 

 モンドムジカの運営者の意図を直接聞いたわけではないので詳細はわかりませんが、ここ数年のモンドムジカの動きは、クレモナの製作者が参加しにくいように変わってきました。出展料の値上げもそのひとつですが、何より「複数の共同出展を認めない」という変更(3年前)は、大きな工房を構えて経済的に余裕がある製作者以外を事実上締め出すことになりました。ALIやConsorzioといった大きな製作者団体が撤退したことも、モンドムジカの性格を変化させました(このあたりの経緯は、前後関係などがはっきりわからないので、何が原因か、ということを特定できることではありません)。結果的には、ピアノのスペースが広くなり(これも、出展する企業は減っています)、今年は管楽器も大々的に登場しました。メイン会場のブースも空白が多く、イメージいらすとのようなプレートがかざってあるところも何箇所かありました。主催者としては、売り上げが伸び悩んでいる弦楽器だけでなく、他の楽器も集めた大きな(儲かる?)展示会にしたいのではないか、と感じています。こうした展示会は、経済状況を如実に表すものです。イタリア経済があまり上手くいっていないことも、方針が変化してきた大きな理由かもしれません。「楽器やその周辺のものの展示会」という意味では発展的なのかもしれませんが、弦楽器の祭典という意味合いは、少なくともここ数年は薄れてきているようです。それでも、まだまだ「クレモナのモンドムジカ」の威光は大きいものだと思います。今回は初日だけの滞在でしたが、前回よりも賑わっているように感じました。

ブースではなくこうした展示スペースが増えていることが状況を物語っています

ブースではなくこうした展示スペースが増えていることが状況を物語っています

 

管楽器のブースもいくつか

管楽器のブースもいくつか

 さて、モンドムジカは10月最初の金、土、日に行われますが、日本の弦楽器フェアは11月最初の金、土、日です。2002年に、上海で楽器の展示会(Music China)が始まりました。これが日本の弦楽器フェアの1週間前の週末・・・伸び盛りの中国の楽器消費を考えれば、製作家やメーカーがどちらを重視するかは明らかです。Music Chinaは弦楽器だけでなく楽器全体のフェアですが、近年は日本の弦楽器フェアへの出展はやめてMusic Chianaに出すメーカーやディーラーが増えています。製作者のなかにも、中国だけで出展したり、中国から日本に回ったりする人もいます。当然、日本のフェアでの楽器の出店数は減りましたし、中国に先に出展して売れた「残り」が日本に持ち込まれるケースも増えています。弦楽器フェアの出展数は明らかに減少傾向ですが、日本の経済が低迷し続けている現状では、このような状況を考えると復活は厳しいのかもしれません。弦楽器フェアも過渡期なのかな、と思います。

バーカウンター

バーカウンター

お昼はカフェで。学食な感じです(笑)

お昼はカフェで。学食な感じです(笑)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

市長さん降臨

市長さん降臨

ヴァイオリンが育ってます

ヴァイオリンが育ってます

デル・ジェス試奏中

デル・ジェス試奏中

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンサートで私が使ったTonrelliさんのブース

コンサートで私が使ったTonarelliさんのブース

相変わらず「こんこん」

相変わらず「こんこん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かわいい楽器たちもたくさん

かわいい楽器たちもたくさん

ペグがいっぱい

ペグがいっぱい

こういうのもありました

こういうのもありました

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちょっと暗い話になってしまいましたが・・・モンドムジカでのエピソードをふたつばかり。

楽器の選定をお手伝い

楽器の選定をお手伝い

エピソード1)楽器のセレクトをお手伝い

 モンドムジカで、イギリスの楽器商が出展していました。陳列された楽器には、ストラディバリ、グァルネリ、プレッセンダーなどの貴重な楽器もありました。例によって涎を垂らしながら眺めて、一台ずつ弾かせていただきました。これまで弾いてきたストラディバリやグァルネリに比べると「ちょっと・・・」という感じのものでしたが、15分ほどそれなりに楽しく試奏をしていました。試奏していると、熱心にこちらを眺めている小柄なアジア人(台湾の方だとあとでわかりました)が。どうやらディーラーではなく、個人で見物に来たお客さんのようです。そのアジア人が、私が試奏をやめてブースから出ると、声をかけてきました。「あの・・・お願いがあるのですが」「??」

 話を聞いてみると、どうやらティーンエイジの娘さんのために楽器を探しに来た、ということでした。そして「×××という製作者(クレモナでは結構有名で大きな工房を構えている)はご存知ですか?」「はい、もちろん知っています。個人的には面識はありませんが(まだ工房にお邪魔したことがない)」「そこで楽器を選んで欲しいのです。私は全く弾くことができないので」うーん。困ったぞ。楽器の良し悪しはともかく、好き嫌いまではわかりません。そのことを言うと「それでも構わない。あなたが良いと思う方を選んで欲しい」ということでした。どうやら、試奏をしている人をかたっぱしから聞いていて、私がお眼鏡にかなったようなのです。無碍に断るのも国際親善のためには・・・と思ったり、娘さんへの想いを想像してお引き受け。その製作家のブースに行って試奏しました。あれこれと話をしながら試奏して「これがいいと思いますよ」と1台の楽器を選ぶと、その方は深々と頭を下げて製作者と購入の交渉を始めたのです。「お嬢さんの手に渡ったら記念に教えてくださいね」と言って名刺を渡したのですが、残念ながら連絡はありません。値段が見合わなかったかな、とも思いますが、ちょっと面白い経験でした。

根本くんからレクチャーを受けてます

根本くんからレクチャーを受けてます

エピソード2)楽器の材料のセレクトに挑戦!

 モンドムジカでは、いくつかの材料メーカーが大量に材木を持ち込んでいて、クレモナの若い製作者たちが木を購入する光景が毎年見られます。良いものを選びたい製作者たちは、初日の早い時間にやってきて、材料を売っているブースに群がっています。というわけで、初日の朝からそうしたブースだけは大繁盛です。

 一回りして「さて、じっくりどこを見ようかな」と思っていた時に、いつもお世話になっている若手製作家の根本くんとばったり。やはり材料を買いにいたようです。根本くんとあれこれ話をしながら、材料選びにお付き合いすることに。

 製作家が木を選ぶのは真剣勝負です。材料の良し悪しが楽器の出来上がりを左右するわけですから、一枚一枚確かめながら選んでいきます。「本当にいいものはオープン前に押さえられちゃうんですけど・・・」と言いながらも、真剣な眼差しで木を選びます。どんなものが良いのか、少しリサーチして私も参戦。

 

 

 

次々と出される材木たち・・・まだあるか・・・

次々と出される材木たち・・・まだあるか・・・

 昨年、松下さんのところで見せていただいた材木が素晴らしいものだった(素人目にもわかりました)ので、それを理想に材木選びに挑戦です。材料を選ぶ基準は、

① 重さ:水分がどのくらい抜けているか、木目がどのくらい緻密かによって比重が変わる。板の大きさは微妙に違うので、単に重さを比べるのではなく「手ごたえ」で判断します。古いものほど水分が抜けて軽くなりますが、もちろん、お値段も高くなることが多い
② 木目:綺麗な木目を重視する作家さんもいますが、あまりこだわらない人もいます。木目が均一かどうか、幅がどのくらいか、などを目で見て選びます
③ 木の状態:これは一言では難しいのですが、木目や虎目の状態がポイントです。木目は年輪ですが、虎目は材木に現れたその木独特の模様。これが3Dのように浮き上がっていると、見かけも美しい楽器に仕上がります(それだけではありませんが)。見かけだけでなく音にも若干影響があるようですが、見極めはプロの領域で、製作者の好みによっても選ばれる木は異なります
④ 音:板を叩いてみます。実際にやってみるとわかりますが、材木によって音は千差万別。良い材木になればなるほど、叩いただけで楽器をボディを叩いたような響きが得られます。さらに、木目によって響きの音の高さも異なり、それによって出来上がった楽器の倍音も変化します

 

 

 

選定終了。あとは横板などをセレクト

選定終了。あとは横板などをセレクト

 ひととおりレクチャーを受けて、選定開始。根本くんと一緒に積み上げられた木をひとつひとつ確かめていきます。最初は積まれていた2つの山をやっつけていたのですが、その間にお店の人が次から次へと段ボールを持ってきて・・・結果的に300枚くらいの板を「こんこん」しました。私が唯一戦えるのは「音」だと思ったので、耳をダンボにして叩いた反応を聞いていました(叩きごたえ、もあります)。指がとっても痛かった・・・

 まず、持って見て「ずしん」と重いものは除外。必然的に値段の安いものはほとんどはじかれてしまいます。夢中になって選んだ結果、根本くんの1、2位と私の選んだ2位、1位が順序を逆にして当選。根本くんは1位の材木を、私は私的1位の材木を買って、根本くんに同じように作ってもらうことになりました。叩いたときの音が根本くん1位のものは少し高く軽やか。私が選んだものは少し低いのですが、その分叩いた後の響きが良く残って微かに倍音も聞こえました。これが私が選んだ理由。「どっちも良い材木なので楽しみです。両方で同じ型のものを作ってみます」とのことで、勝負の結果は来年の春には出るでしょう。どんな楽器ができるのか、また、楽しみがひとつ増えました。

[ 2016/11/07(月) 11:49 ] クレモナレポート, ヴァイオリン, 楽器| コメント(0)
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