柏木真樹 音楽スタジオ

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 工房訪問記に書こうか迷ったのですが・・・

Cremona Toolsの看板。この建物の中には、Ciaccioさんの工房以外にも弓の工房などもあって、ずっと音が聞こえていました

Cremona Toolsの看板。この建物の中には、Ciaccioさんの工房以外にも弓の工房などもあって、ずっと音が聞こえていました

 

 

 

 モンドムジカは初日に一回りして、その後、Cremona Tools(楽器の製作用具を売っているお店)でお買い物。(結局求めたものがなく、11月の弦楽器フェアに来日(帰国?)するMaestra Chikako Hayamaに持ってきてもらうことにしました)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

製作用の木材も。でも、モンドムジカの時はモンドムジカの中の材木屋で買うことが多いようです

製作用の木材も。でも、モンドムジカの時はモンドムジカの中の材木屋で買うことが多いようです

 

 

 Cremona Toolsは、クレモナの製作家が普段、製作するための道具を買いに来るところです。それほど広くない店内には、所狭しと楽器を作るための材料や製作道具が売られています。製作用の木はもちろん、カンナ、ナイフなどの製作道具、各種のニスやニスを塗るための刷毛、セットアップ用の道具(駒、テールピースやテールガット、ペグなど)、各種アジャスター、魂柱を動かす道具などなど。カッターや接着剤には、日本製のものも多く、世界中から製作用のToolを集めていることがわかります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

製作のための道具。表示が日本語のままの日本製もありました

製作のための道具。表示が日本語のままの日本製もありました

 

 

 

探していたものはありませんでしたが、注文するとすぐに発注してもらえます。もちろん英語も通じますが、今回はChikakoさんに通訳をしてもらいました(ので、やりとりはわかりません/笑)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

工房の入り口。大きなスマートな看板が

工房の入り口。大きなスマートな看板が

 

 

 

 その後、同じ共同住宅にあるChikakoさんの工房(ご主人のMaestro Ciaccioさんともう一人の3人の共同工房)に高橋さんを含めて4人でお邪魔して、楽器談義と調整をしました。前日にも一度お邪魔していて、少し注文を出していたので、それをチェックして再度の調整です。弦楽器フェアにブースを出すそうですので、興味がある方は是非訪問してください。

 工房の入り口にはCiaccioさんの大きな写真入りの看板が(これはモンドムジカ中だけ?)。工房にはおしゃれなオブジェ。奥の工房は、明るく作業をしやすそうです。

 

 

 

 

 

Chikakoさんの楽器はずっと良くなっていました。「やったね」

Chikakoさんの楽器はずっと良くなっていました。「やったね」

 

 Ciaccioさんの楽器はなかなかのもの。弾きやすいし、いろいろな音が作れる楽器です。私が試奏するのを聞いていると「もっとこういう音がいいなぁ」とあれこれと注文がでてくるので、その都度、駒や魂柱を調整して確認することを繰り返しました。うまくいくと「GJ」とにっこり。ラテン系のイケメンお兄さまで、足を組んでソファーに座っている姿も堂に入っている(笑)

 Chikakoさんの楽器は前日に駒を調整するようにお願いしてあったのですが、調整の甲斐あってぐっと良くなっていました。さらに少し調整して「とっても良くなったね」というとChikakoさんもにっこり。

 さて・・・

 

 

 その日、Chikakoさんが「カナダ人がすごい楽器を持ってくるよ」とのこと。なあに?と聞くと「ルジェリ(Francesco Ruggeri 1630-98。クレモナの代表的な作家の一人」だそうです!!

 ルジェリは、昨年のヴァイオリン博物館でのコンサートで素晴らしいハイドンを聴かせてくれたEnrico Dindoが使っていた楽器です。チェロの作家として極めて高い評価を受けている作家ですが、ヴァイオリンはとっっっても珍しい。ヴァイオリン博物館には1680年のものがありますが、実物にお目にかかるのは初めてです。カナダ人のご夫婦(60代とお見受けしました)は、Ciaccioさんに調整ができるかどうか聞きに来たとのことですが、横で餌を前によだれを流しているワンコ状態の私・・・そんな私を察して、Chikakoさんが「日本から来ているヴァイオリニストに弾かせてあげてくれますか?」と聞いてくれました。

 旦那さんの方は「おお、いいよ。弾いてくれ」という感じで楽器を渡してくれたんですが、「次の用事があるから5分な」とのこと。日本から持参した自分の弓を取り出して試奏させていただきました。

ルジェリを試奏。左端が所有者のカナダ人です

ルジェリを試奏。左手前が所有者のカナダ人です

 最初にベートーヴェンのコンチェルトの出だしから弾き始めたのですが、すぐに違和感が・・・思い直して、バッハ、ヴィヴァルディなどを「軽く」弾いてみました。すると・・・ベートーヴェンを弾いたときは楽器がとっても一生懸命に「鳴っている」状態だったのですが、バッハを弾き始めると、突然楽器がニコニコして、音に羽が生えたように飛び始めました。うーん、凄い・・・調子に乗って15分くらい弾かせていただきました。その様子を見ていた高橋さんによると、奥様の方は時計を見て旦那さんに「ほら、早く、早く」と何度もせっついていたようですが、だんなさんがニコニコ笑って聴いてくれていたようです(汗)。弾き終わって楽器をお返ししたら「素晴らしい、聴かせてくれてありがとう」と言ってもらいました。と、ここまでは「気持ちの良い話」なんですが・・・

このルジェリ、実は楽器をサイズアップしてありました。楽器をよく見ると、表板も裏板も外側に板を加えて大きくしてあるのです。それでもデル・ジェスより小さめです。モダン仕様に改造したときに大きくする補修もしたのだと思います(そういえば、ルジェリのチェロは、それまでのチェロを小さくしたことで知られています)。ベートーヴェンを思い切り弾いたときの違和感は、「僕はそういう楽器じゃないんだよ」という悲鳴だったのかもしれません。しかし、バッハやヴィヴァルディを弾いたときの気持ちよさは、今まで経験したことのないものでした。

 その後もCiaccioさんの工房で楽器を試奏しながらあれこれと調整していたら、Ciaccioさんがワインとチップスを持ってきてみんなで飲み始めました。飲んでないのは、自分の楽器を調整しているChikakoさんだけ。同行した日本人3人は、お仕事をしている私を尻目に、せっせと飲み食い・・・ずるい。それから30分ほどして試奏が終わった頃には、ワインはすっかり空です(涙)。と思ったら、Ciaccioさんがもう一本持ってきてくれて、それから小一時間ほどワインを飲みながら楽しくお話をして、工房を後にしました。

 その後、お気に入りのお店に。ここで事件が起きました。

 テーブルに案内されている途中で、先ほどのカナダ人のご夫婦が4人でお食事中のところに遭遇。「先ほどはありがとうございました」「いや、いいものを聴かせてもらってこちらこそありがとう」とにこやかにご挨拶。自分たちの席について食事をしていると、先ほどのカナダ人がやってきて、「さっきはありがとう!」と名刺を渡してくれました。よく見もせずに、慌てて私も名刺を渡す。握手をしてわかれて、渡された名刺をよく見ると、表にはたった1word・・・

「KonsertMester]

げ、と思ってひっくり返してみると、なんとベルゲン・フィルハーモニーのコンサートマスター、David Stewartさんでした(大汗)。酔いが一気に冷めるほど恥ずかしい・・・

「げーーーーなんつうことを!!恥ずかしすぎる!!それなら弾いてもらうべきだった!!」

 意気消沈している私に「演奏がつまらなかったら、わざわざ名刺を持ってきてくれないと思うよ。きっと本当によかったと思ったんだよ」と慰めてくれるんですが・・・

 今回、一番恥ずかしかった体験でした。


(注)ベルゲンフィルハーモニー管弦楽団は、1765年にノルウェーのベルゲンで創立された歴史あるオーケストラです。

 でも・・・その後はさらにしこたま飲んで・・・単なる酔っ払いになりました。

[ 2016/10/30(日) 16:58 ] クレモナレポート, ヴァイオリン, 楽器| コメント(0)
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