柏木真樹 音楽スタジオ

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22日のメンバーとの会食。背景には塔が写っています

22日のメンバーとの会食。背景には塔が写っています

 

 

 

 今回の企画の発端となったSt. Rita教会でのコンサートは、私ひとりの思い入れからスタートしました。当初は、クレモナの楽器を集めて、私が率いてヴィヴァルディやコレッリなどバロックをやろう、と思っていたのですが、2月にクレモナを訪れてから、考え方をかなり修正しました。理由は、二つありました。

 

 

 

 

 

 

 

 

練習の総指揮を取っていただいた津留崎さん。要求は厳しく、何度も何度も修正を繰り返しました

練習の総指揮を取っていただいた津留崎さん。要求は厳しく、何度も何度も修正を繰り返しました

 

 

 ひとつは、ワークショップがかなり大掛かりなものになりそうなために、自分自身がコンサートに全力投球できるかどうかが怪しいこと。もうひつとは、どうせコンサートをやるのであれば、相応しい人に弾いてもらいたい、ということでした。教会で弾いていただく・・・私がまずイメージしたのは、チェリストの津留崎直紀さんでした。

 

 

練習会場の外は、Duomoに通じる繁華街で賑わっています

練習会場の外は、Duomoに通じる繁華街で賑わっています

 

 

 

 津留崎さんには以前からたくさんお世話になっていますが、何より音楽に対する姿勢、そしてバッハに対する慧眼について、心から信頼している演奏家だからです。以前、無伴奏組曲を聴かせていただいたときに、「バッハの音程」を感じたことがありました。こういう演奏をこの教会で聴いてみたい、という欲求を抑えることができず、半ば独断で今回のイベントへの津留崎さんの参加を決めてしまいました。津留崎さんが参加していただけることになって、精神的にはぐっと楽になりました。津留崎さんとのお話の中で、音楽的なリーダーシップを全面的にとっていただけることになり、私はワークショップの準備にほぼ専念することができたのです。津留崎さんには感謝の言葉もありません。

 

 

 

練習風景。これは外から撮った写真です

練習風景。これは外から撮った写真です

 

 

 事前に東京で練習してから行く、という計画は、メンバーの地理的な要因や私の忙しさで実現しませんでした。数名が集まって津留崎さんのところで打ち合わせをし、その録音と楽譜をメンバーで共有して現地での練習に臨む、という形で準備が進みました。現地では、23日、24日の2日間、10時から19時までの練習を行い、25日は午前中にリハ、17時開演、というリハーサルの詳細が決まったのは、私がクレモナに立った17日のわずか1週間前でした。(イタリア時間をかなりなめていたのは確かです。高橋さんの心痛はいかばかりであったかと、申し訳ない限りです)

 

道行く人たちも練習を覗いていました

道行く人たちも練習を覗いていました

 

 

 

 津留崎さんは19日、坂本くんは20日にクレモナ到着。残りのコンサート参加者は、ワークショップの最終日22日の夕方にクレモナに到着しました。その晩は、到着したメンバーを交えて(全員ではないのですが)夕食会。気持ちの良い夜でした。

 

 

練習場の中から

練習場の中から

 

 

 23日からは津留崎さんの指導のもと、地獄の練習がスタート(津留崎さんは、「地獄」というほど怖くはありません)。ひとつひとつの曲を、丁寧に、背景や弾き方などを細かく説明していただき、最初はバラバラだったアンサンブルも次第に曲らしくなっていきます。2日間の練習で、何とかなりそうな雰囲気にまで持っていくことができました。

 

 

 

コンサートのギリギリまで楽器の調整を続ける茂木さん

コンサートのギリギリまで楽器の調整を続ける茂木さん

 

 

 高橋さんに取っていただいた練習会場は、市の商工会議所が所有している展示室です。市の中心、Duomoのすぐ横の路地を入ったところにあり、人通りがとても多いところ。写真でご覧になれるように、練習風景が丸見えです。チラシを外から見えるように掲示していたので、道行く人たちがどんどん止まって覗いていきます。よいPRになりました。

 

 

 

リハーサル中の1シーン

リハーサル中の1シーン

 

 

 

 メンバーが使った楽器は、すべてクレモナの製作者が作った楽器です。ほとんどがワークショップに出していただいた楽器から選んだもの。できるだけよい状態でコンサートに臨むために、当日まで調整を続けました。全員、初めて弾く楽器です。楽器に慣れるためにも、長時間の練習は貴重でした。

 

 

 

入場は無料ですが教会への献金をお願いしました

入場は無料ですが教会への献金をお願いしました

 

 

 

コンサートは、全体としてはうまくいったと思います。いちばんだめだったのは、私のバッハ(涙)。言い訳をしてはいけないのは重々承知ですが、ある意味で貴重な経験だったので、この文章の途中で晒してしまいます。

 

 

 

コンサートの様子。お客さんもたくさんいらしてくださいました

コンサートの様子。お客さんもたくさんいらしてくださいました

 

 

 教会のような特殊な響き(これが中世では当たり前だったわけですが)の中で弾くことの難しさは、貴重な体験になりました。聞こえてくる音の時差は、想像はしていましたが「怖い本番」になってしまいました。お客さんがたくさん入ってくださったので、リハよりはずっと良かったのですが。アンサンブルのメンバーは、とてもしっかり演奏してくれたと思っています。ありがとうございました。

 

 

 

津留崎さんの独奏。これが聴きたかったのです

津留崎さんの独奏。これが聴きたかったのです

 

 

 

 

 津留崎さんのバッハは、やはり「来ていただいてよかった」と心から思いました。響きのあるところで弾いても音が濁らない音程と弾き方は、私にとっても涙が出るくらい嬉しかったです。

 

 

 

 

 

 

 

 

楽器は一台ずつ製作者を紹介しました

楽器は一台ずつ製作者を紹介しました

 

 

 

 コンサートの終了後、詰めかけてくださったお客様から、そして神父さまから、暖かい拍手とお言葉をいただきました。ほんとうにありがとうございました。

 

 

 

★プログラム

・ペルゴレージ:スタバートマーテルより第1曲
・バッハ:無伴奏チェロ組曲第3番
・ヴィヴァルディ:合奏協奏曲作品3−11
休憩
・バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番よりプレリュード
・プッチーニ:菊
・ヴィヴァルディ:チェロ協奏曲ハ長調

音楽監督、チェロ独奏:津留崎直樹
ヴァイオリン独奏:柏木真樹、濱田ゆかり
アンサンブルCONSONO:上田佳津子、矢吹彩、臼田慧太郎、坂本卓也、宮波志輔、岡田一輝、浅野ありさ

コンサート終了。多くの製作家に来ていただきました。終了後も30分以上立ち話

コンサート終了。多くの製作家に来ていただきました。終了後も30分以上立ち話

 

 

 私の経験を書いてみます。戒めと、これからのために。

 私は計画段階では、ヴィヴァルディのソロ以外に、プレリュードの3番を全曲弾くつもりでした。しかし、津留崎さんにお任せすることになって、私自身がワークショップの準備でほとんど練習ができないこともあり、プレリュードだけに絞ったのです。普段から暗譜で弾いていた曲なので、「これなら」と考えたのですが、思わぬ落とし穴がありました。

 

 

 

打ち上げ会場。始まった時は明るく、終わった時は真っ暗でした

打ち上げ会場。始まった時は明るく、終わった時は真っ暗でした

 ワークショップの初日に楽器を決め(これは問題なくTonarelliさんの楽器になりました)、ホテルの部屋で弾いてみると・・・とんでもないことになっていました。最初は快調に弾いていたのですが、あるところでふと指が止まってしまいました。先が出てこないのです。何度トライしても、どこかで止まってしまいます。楽譜を見て弾くともちろん止まらないのですが、ものすごく違和感がある。これまで、暗譜してあった曲が途中で止まったことは一度たりともなかったので、パニックになりました。それから、空き時間のたびに弾いてみるのですが、弾くたびに止まるところが違う。止まったところはイメージし直して弾いてクリアしても、その直後(ないし、そこの直前)にパタッと止まってしまうのです。「これがストレスか」と思い、他の暗譜している曲も試してみました。結果は惨敗。何とか弾き通せたものもあったのですが、「どうしてチャールダッシュが止まっちゃうの?」という感じです。結局、前日まで、一度たりとも通せずに当日を迎えてしまいました。

 

母と。今回は母にもクレモナに来てもらいました

母と。今回は母にもクレモナに来てもらいました

 

 当日は、悩みに悩みました。リハーサルで弾いても通せる気がしなかったからです。今考えれば、リハーサルの時に、諦めて楽譜を置いて弾いてみるべきでした。しかし、音を確かめるだけにして、本番までに練習してなんとか挽回しようとあがいてしまいました。結果的には一回も弾けず、本番は急遽譜面を置いて弾くことに・・・結果はご想像の通りです。

「本番になると上がって弾けなくなる」というだけでなく、コンサートをイメージするだけで頭が働かなくなったのは、今後のためには貴重な経験だったと思います。普段からコンサートをこなしている演奏家ではないので、演奏するイメージが弱すぎたのでしょう。もちろん、人生初めてといえるストレスがかかった数ヶ月を過ごした結果なのは想像に難くありませんが、そういう時でも対処できるようにしなくてはプロとは言えません。翌日からの工房めぐりやモンドムジカの試奏では、何ということなく弾けました・・・・涙。ストレスの恐ろしさを体験した、とても貴重な経験をしたと思っています。次回があるならば、ワークショップとコンサートを分離するなど、なんらかの対策をとろねばと思っています。

 

最後の挨拶もマッテオに通訳をしてもらいました。ありがとう、マッテオ!!

最後の挨拶もマッテオに通訳をしてもらいました。ありがとう、マッテオ!!

 

さて、コンサートが終了して、お客様が教会から出ていらっしゃいました。その中に松下さんの姿を見つけました。松下さんは、今回の企画に対してたくさんのアドヴァイスをしてくださっただけでなく、私の考え方が甘いところを厳しく指摘していただきました。結果的にワークショップはなんとか成功といえる結果が出たのですが、松下さんはお仕事でいらっしゃれず、コンサートも「遠方にいるので間に合わないと思う」とおっしゃっていたのです。それが、車で4時間「すっとばして」コンサートに駆けつけて下さいました。「これはどうしても来ておかないと、と思ったよ。ワークショップもよくやったね」と言われた瞬間に、号泣してしまったのです。「柏木さんと出会ってからもう20年以上になりますね」と松下さん。そこからは・・・涙腺がおかしくなってしまって泣き笑いの数時間を過ごしました・・・

 コンサート後には、製作家さんをお迎えして、打ち上げのパーティー。泣き笑いの3時間でした・・・

長い1日が終わってホテルへ戻ります。お疲れさまでした

長い1日が終わってホテルへ戻ります。お疲れさまでした

二次会も飲み続けました・・

二次会も飲み続けました・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 高橋さん、本当にありがとうございました。佐瀬社長、マッテオさん、茂木さん、小林さん、そして津留崎さん、坂本さん、アンサンブルのみなさん、そして、参加していただいた製作家のみなさん、心より御礼を申し上げます。

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