生徒の一人が、防音ルームを買うことになりました。東京の住宅事情では、きちんと練習するのはなかなか難しいので、防音ルームも一つの選択肢であることは確かです。しかし、ヤマハのアビテックスなどの値段を見ると、あまりに高い。これなら、月に家賃が2、3万高くても、音が出せるところに住む方が良いのではないか、と思ってしまいます。そんなわけで、私自身は、防音ルームを入れることを本気で考えたことはありませんでした。ところが、生徒が今までの大メーカーの防音ルームよりかなり安いものを見つけてきたので、後学のために見学に行くことにしたのです。ショールームは、池袋から徒歩10分ほどのところにあります。カタログを見ると、確かにかなり安いのです。しかし、性能が悪ければしょうがありません。さてどんなものかと、楽器を持って試しにいきました。
実は、防音ルームに対する不満は、もう一つありました。それは「音質」です。防音ルームの主目的は、外に音が漏れないことですから、防音ルーム内の音もできるだけ抑制する方向に作られているものです。特に、金管楽器などを狭いところで演奏する場合、響きがあると練習にならないこともあります。ですから、ほとんど響きが残らず、楽器の音質を判断するためには、かなりの経験が必要になります。その点も、特にレイトスターターにはあまり勧められないものだと思っていたのです。
ところが、今回見せていただいた防音ルームは、少し違ったものでした。遮音性能は、大手のものと遜色なく、十分に使用に耐えるものですが、中で弾いた時にかなり残響があるのです。設計者にうかがってみると、やはり意図的に響きを残している、ということでした。残響が全くないところで響きを増やすことは不可能ですが、響きが多いと感じる場合は、カーテンなどを内部に付けることで調整ができますから、ユーザーの楽器や使用するコンセプトに応じて調整してほしい、というのが設計者の発想だったのです。結果は、「これなら使い物になりそう」というものでした。
実際に、防音ルームの使用を考えている方は、大きさにも十分に注意してほしいと思います。「練習だからなんとか弾ける大きさで十分」と考えていると、痛い目に遭います。人間の感覚は、使えるスペースを全部使う運動を避けてしまうものです(これは、簡単に実証できます。狭いスペースを全部使って動き回ることは困難なのです)。ですから、ぎりぎり弾くことができる大きさだと、恐怖心を感じてきちんとした弾き方ができないのです。もちろん、サイズが大きくなると値段も高くなりますし、格納する部屋の広さもより必要になりますので、十分な大きさがない部屋に導入する場合などは仕方ありませんが、できれば、少しゆとりのある大きさにしたいものです。