掲示板から興味深いものやためになりそうなものを転載します。
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BARAさん
投稿、ありがとうございます。非常に高度なテーマで、たくさんの問題を含んでいますので、私の回答だけが「正解」だと思われないようにしてください。
まず、「エロイカ」の冒頭のEs、Bを、純正に調弦したヴァイオリンのピタゴラスのEsで取ることはあり得ません。普通は、ヴァイオリンでハーモニーになるように、Es、Bを高く取ります。それ以前に、オーケストラでは、ヴァイオリンのチューニングを純正に(ピタゴラスの五度と同じですね)合わせることもほとんど考えられないと思って下さい。弦楽合奏の場合、ミーントーンの五度を使うとよい場合がありますが、現代のオーケストラではほとんど平均律を「目指して」チューニングしてしまいます。純正5度との差は高々2セントで、実用上(あくまでオーケストラの場合です)の問題は微小です。
そのことを前提にして、いくつかの「ヒント」を書いてみます。
和音の音程と旋律音程の乖離が問題になるかどうか
> 旋律を弾くEsと和声のEsがここまで違うと違和感があるでしょうし、バイオリンだけで合わせたEsと他の楽器のEsが合わない可能性があります。こういった場合どうすればよいでしょうか。
和音の音程と旋律の音程が違うことは、実はそれほど気にならないことの方が多いのです。和音がひとつの響きとして聞こえた場合、旋律はむしろそこから浮き上がる音程である方が、和音の進行と旋律がそれぞれ美しく聞こえることが少なくありません。旋律が和音の音程と同じだと、旋律の進行が見えにくくなります。(タイムリーな話なのですが、16日に行なったレクチャーコンサートの最初の二曲は、キルンベルガーに調律したピアノと全く同じ音程で弾きました。結果として、「旋律が見えなくて面白くない」「ヴァイオリンの旋律の音程が気持ち悪い」という感想もありました。)
実験することは簡単です。何人かの弦楽器奏者で、純正にあった和音を弾きます。できれば、モーツァルトの速い楽章によくあるように「ドソミソドソミソ」とか「ドミソミドミソミ」などという形を交えた伴奏に、伴奏と同じ音程のヴァイオリンの旋律とピタゴラスで弾いた旋律をかぶせてみます。「モーツァルトは旋律音程で弾いてはイケナイ」という主張を目にしたこともありますが、ピタゴラスで旋律を弾いたものが「ダメだ」という結論には決してならないでしょう。
>また、私の所属しているオケでは指揮者が旋律でも純正律の三音や七音でとらせます。
同じ理由で、これは私にとっては「?」です。まず、純正律の音程ですべての旋律を弾くことは「非常に困難」だと思います。不自然ですから。指揮者は、恐らくバロックの演奏家ではないか(合唱の指導者ということはないですよね?)と思いますが、オーケストラでそれを要求することは、非常に極端だと思います。このあたりのことは、音律の歴史だけでなく、音楽の形態の変化の過程をバロックから19世紀後半まで俯瞰してみないとわからないでしょう。また、このことが即「平均律のみを使う」ということにはつながらない、ということも理解して下さい。基本的に平均律の上に乗ったオーケストラでも、旋律線を美しく演奏するために、「自然に」ピタゴラスの音程で弾くことは普通です。
回答になっていますでしょうか?