今回は、クレモナのヴァイオリン博物館にあるホールで聴いた、生涯忘れれないコンサートのお話です。
実は、このコンサート、全く聞く予定ではありませんでした。この日は、日本人のヴァイオリン製作者と「飲みに行く」予定だったからです。ところが、前日お会いした松下さん(改めてレポートしますが、クレモナで最も有名なヴァイオリン製作者のひとり)に「絶対に聴いた方がいい」と言われて聞くことにした、という経緯がありました。松下さんには、本当に感謝しています。
STRADIVARIfestival2015
Enrico Dindo
I Solisti di Pavia
Giuseppe Martucci(1856-1909)
Tre pezzi per archi(1893)
Momento musiale – Minuetto – Serenata
Franz Joseph Haydn(1732-1809)
Concerto in re maggiore, per violoncello e orchestra, Hob.VⅡb:2
(1762 – 1765)
Allegro moderato – Adagio – Rondo. Allegro
Franz Joseph Haydn
Kindersinfonie in do maggiore
Allegro – Menuetto – Finale(Allegro)
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Giacomo Puccini(1858-1924)
Crisantemi per archi(1890)
Franz Joseph Haydn
Concerto in do maggiore, per violoncello e orchestra, Hob.VⅡb:1
プログラムを見たときは、松下さんオススメのチェリストはともかく、プログラムが「フェスティバル用プログラム」ではないかと思って、ややテンションが下がったのは事実です。当日の朝にチケットを買ったにもかかわらず、2Fの一番前、チェロの正面というもっとも良い席でしたし「売れてないんか・・」と感じたのも事実。しかし、コンサートが始まる頃には、席はほとんど埋まりました。
ほどなくして始まった演奏を聴いて、「お、なかなかやるじゃない」と、期待を抱かせました。イタリアの作曲家としては珍しく器楽曲ばかり書いていた作家の曲ですが、オーケストラはちゃんと「イタリア」しています。そしてなにより、「気持ちが良い」のです。(オーケストラの編成は、1st 4 2nd 4 Va 2 Vc 2 Kb 1、協奏曲にはオーボエとホルンが二人ずつ加わりました)この「気持ちよさ」の理由は、ニ長調の協奏曲が始まって、ほどなくして明確になりました。それは「音楽的な常識に完全に沿っている」ことでした。
ニ長調の序奏が始まってすぐ、心臓がバクバクしはじめました。「こんな演奏、聴いたことない!!」
最後の音を不用意に強調したりヴィヴラートをかけたりする奏者はひとりもいません。もちろん、ヴィブラートそのものも、完全に考えられていて、最小限。なにより、係留音や先取音をきちんと強調し、あとがおさまる。変に長いフレーズもなく、音が濁らない。ピリオド奏者ならある程度「あたりまえ」のことですが、モダンの楽器でこんな演奏ができるなんて・・・ハイドン特有のぶつけるボウイングも、モダンでやると雑音成分が強すぎて不快になることも多いのですが、とても鋭く、きちんと強調されている。そして、ソロも圧巻。難物のハイドンの協奏曲を「何気なく」弾いている。そして、時々楽器を体から離したり、腕を上げたりしています。休憩のときに一緒に聴いていた人から「あれはパフォーマンス?」と聞かれたのですが、いいえ、違います。楽器を響かせるための計算された動きなのです。楽器は1717年のRogerriのものですが、素晴らしい音と響き! こんな演奏がしたい! と心から思いました。
チェリストのEnrico Dindoは、スカラ座歌劇団のチェロ首席を務め、ソリストとしても欧州を中心に活躍しているそうですが、不勉強で私は知りませんでした。日本ではあまり有名ではないかもしれませんが、一聴の価値ありです!!
休憩前の「おもちゃの交響曲」も素晴らしかった。最初から「このテンポ!」という軽快な音楽が始まり、音楽に必然性が感じられるのです。そう、これはおもちゃでなければならなかった。
休憩では、興奮した私の話を、松下さんも喜んで聞いてくれました。「すごいチェリストだと思っていたけど、音楽が気持ち良いのは、そういうことなんですね。そんな風に分析してもらったことがないからわからなかったけど」
後半は、もう、最初から前のめりです(笑)。プッチーニはまるで生き物のようにオーケストラが鳴動し、そしてハイドンはニ長調よりさらに磨きがかかっていました。3楽章が始まった瞬間「スピード違反!!」(爆)モダンの弓を目一杯使って、どうしてこんなテンポで音の粒が揃うんだろう・・・3楽章が終わった時、本当に無意識に「ブラボー」が出てしまいました(25年以上ぶりです!)
オーケストラは、ミラノ近郊の都市パヴィアのオーケストラです。弦楽器に興味がない人にとっては、歴史的にはクレモナよりはるかに知られている都市ですが、町の規模はほぼクレモナと同じくらいのようです。そんなところにこんなオーケストラがあるのです。イタリア、恐るべし!!
そして、忘れてならないのはホールの音響の素晴らしさ。サントリーホールの設計者の手になるものだそうですが、ちょうどよい大きさ、美しい響きが特筆ものです。ホールや博物館の詳細については、サラサーテ誌の次号を是非お読みください!
コンサートが終わったのは23時を回っていましたが、その後の夕食とワインがとても美味しかったことは言うまでもありません。