1月28日
昨年まで行なっていた東京北社会保険病院での病棟コンサートが、病院側の都合によりことしから併設されている老健施設でのコンサートに替わりました。今日は、この施設での初のコンサート。いつものスタイルですが、初めてのところはやはり少しばかり緊張します。
老健施設は、病院でもいわゆる「老人ホーム」でもなく、基本的には期間限定(原則3ヶ月まで)の入所施設です。現在続けている日立の施設(サン豊浦)でのコンサートでは、入所者は基本的にずっといる人たちですので、ある意味で「顔なじみ」になるのですが、こちらではこうした関係性はできないでしょう。
こうした「ボランティアコンサート」の難しさは、行なわれる場所の特性に左右されます。入所者が基本的に替わらないところであれば、曲目やコンサートの内容、やりかたなどの経験が蓄積されていきますが、病院や老健施設では「その場限り」のものになってしまう可能性が強いのです。もちろん、ひとつの「楽しみ」としての意味は十分にあると思いますが、入所者の「ケア」「刺激」という点では、どれほどの効果があるかはわかりません。しばらく続ける予定ですので、こうしたことも頭に置きながら行なっていこうと思っています。
初めてのところということもあり、曲目は極めてオーソドックスなものにしてみました。
- エルガー「愛の挨拶」
- 「魅惑のワルツ」
- 日本の歌「冬景色」「早春賦」「蘇州夜曲」
- ドヴォルジャーク「ユモレスク」
- サラサーテ「ツィゴイネルワイゼン」
- 「ふるさと」
- アンコール「タイスの瞑想曲」
企画者でありピアノを担当しているKEI先生は、日立の施設で毎月「音楽療法」を行なっています。ここでは、「声を出す」「歌を歌う」ことで、入所者にアプローチしているのですが、コンサートもその延長にあります。一緒に歌を歌うことと演奏を聴くことを組み合せることで、できるだけ入所者が「頭を使う」「刺激を受ける」ことを目的としているのです。これはとても意味があることで、普段何も反応しない方が「次のコンサートはいつですか」と職員に尋ねることもあるそうです。
私たちのコンサートは、「聴くこと」「歌ってもらうこと」で成り立っています。そのために、日本の歌は最初は私がヴァイオリンを弾いて一緒に歌ってもらいます。KEI先生は客席でマイクを持って回り、一緒に歌ってもらいます。私もヴァイオリンを弾きながらできるだけ客席を移動して、音を近くで聞いてもらったり、顔を見てまわったりするのです。こうした作業は、老人施設でのコンサートでは欠かせないものだと思っています。
今日も、ちょっとエキサイティングなことがありました。KEI先生がマイクを持ってある女性に近づくと、職員が「その方は歌えません」と手を横に振ったのですが、その方はどうも歌いたい様子。思い切って近づいてマイクを出してみると、実際に声をだして歌おうとしました。もちろん、ちゃんとした歌になっているのではないのですが、歌詞を思い出し、一生懸命歌ったのです。頭の中では、恐らく歌のイメージがまだはっきりあるのでしょう。こうした刺激は、とても大切なものなのです。
父親が痴呆症で介護施設のお世話になっている(デイサービスやショートステイなど)ので、こうした施設での催し物の内容はいろいろと聞いているのですが、必ずしも入所者が喜ぶものばかりではありません。実際、父親は演歌などのコンサートなどでは、何も反応がないそうです。しかし、「野ばら」を一緒に歌った時には、なんとドイツ語で歌を歌って施設の職員がびっくりしていました。何が「ヒット」するかわからないのですが、できるだけ参加される方にとって「よい刺激」になるようなコンサートを続けていきたいと思います。