先々週、スタジオのピアノを調律しました。搬入してから半年以上調律をしていなかったのでボロボロの状態でしたが、ようやく、希望する調律をしてくださる方を見つけ、キルンベルガーに。ベートーヴェンの使っていた調律法です。以前、「純正律は世界を救う!」の(苦笑)玉木さんの事務所にお邪魔した時、キルンベルガーに合わせて弾いたスプリングソナタを、生徒の皆さんにも体験していただこうという魂胆です。レッスンに生徒さんが来るたびに、ピアノを聞かせることに・・
まず、各調のドミナントを聞かせます。この段階で、全員が「調によって響きが違う!」と感じます。平均律のピアノではあり得ないことですが、調によって、全く異なる固有の響きがあるのです。どのくらいの生徒さんに通じるか、と、やや心配ではあったのですが、現時点で、聞かせたすべての生徒がその違いをはっきり認識しました。Fは柔らかく、Aはとても明るい(明るすぎる?)。そして、スプリングソナタの伴奏を弾きます。次に、Gに移調して、同じものを弾いてみます。ほとんどの生徒が目を白黒させました。確かに、Gだと、全く違う曲になってしまうのです。そして、「英雄」シンフォニーや「悲愴」ソナタの冒頭を弾きます。Esは堂々とした感じがして、c-mollは、非常に不安定な、悲壮感のある音色になります。これらの曲を調を変えて弾くと、全く違う音楽になってしまうのです。
「いろんな調があるのが不思議だった。どうして全部Cにしないのかと思っていた」とは、ピアノを長い間弾いていたレイトスターター。どの和音を弾いても同じに感じていた、というこの生徒は、むしろ良い耳をしていたのだと思います。また、「ヘ長調の柔らかさを表現して」と言われてわからず、自分は耳が悪いのだと思い込んでいた人もいます。「ヘ長調はやわらかい」というのは、ほとんどの人が「そう習ったから、そのように弾いている」ために起こることで、それを感じないのは、むしろ当然なのです。このあたりのことは、またじっくり書いてみようと思います。