柏木真樹 音楽スタジオ

トップページ > Blog > 音楽的主張 > 難しい問題ですね…もちろん文化予算削減には反対なんですが…

数日前に、何通かのメールをいただきました。内容はどれも同じで、民主党政権による事業仕分けで音楽関係の予算が削減されようとしていることに対する反対のメールを送って欲しい、というものです。小澤征爾氏が民主党の小沢幹事長と会談したことが「Wオザワ会談」として報道されましたので、ごらんになった方も多いでしょう。

事業仕分けの対象となって、廃止・削減の対象となっているのは、「芸術創造活動特別推進事業助成金」「プロ・オーケストラによる本物の舞台芸術体験事業」、いずれも文化庁の事業です。

芸術創造活動特別推進事業は、音楽、舞踊、演劇、伝統芸能、大衆芸能、映画の分野の活動について、恒常的な活動をしている団体の事業に対して助成するもので、総額43億円ほどの事業です。その中で、音楽関係では昨年度は44団体の155の事業について助成が行われました。オーケストラを例にとると、助成を受けたのは

  • 大阪シンフォニカー(3公演/事業)
  • 大阪フィル(6公演/事業)
  • 大阪センチュリー(4公演/事業)
  • 神奈川フィル(3公演/事業)
  • 関西フィル(5公演/事業)
  • 九州交響楽団(5公演/事業)
  • 京都市交響楽団(2公演/事業)
  • 京都フィルハーモニー室内合奏団(4公演/事業)
  • 群馬交響楽団(9公演/事業)
  • 札幌交響楽団(2公演/事業)
  • 新日本フィル(9公演/事業)
  • 仙台フィル(10公演/事業)
  • セントラル愛知(1公演/事業)
  • 東京交響楽団(10公演/事業)
  • 東京シティ・フィル(2公演/事業)
  • 東京都交響楽団(6公演/事業)
  • 東京フィル(7公演/事業)
  • 名古屋フィル(5公演/事業)
  • 日本フィル(3公演/事業)
  • 広島交響楽団(6公演/事業)
  • 山形交響楽団(6公演/事業)
  • 読売日本交響楽団(5公演/事業)

 

この「公演/事業」とは、一回の公演だけでなく複数回のシリーズ物も対象ですので、実際に助成を受けている公演数は相当の数に上ります。ご覧のように、定期的に活動を続けているプロ・オーケストラのうち、N響のように財政基盤が安定している団体以外は、ほとんどの団体が網羅されていることがわかります。特に、多数の公演に助成を受けている団体は、まさに存亡の危機にあるといえるでしょう。

これだけの助成(他にも地方自治体の助成などもあります)を受けていながら、オーケストラの団員の待遇はとても立派なものとは言えません。正団員はともかく、エキストラで演奏会に出るメンバーの出演料などは、聞いてしまうと呆然とするくらいに安いのです。

文化が「お金にならない」のは、大昔からの「常識」です。19世紀までは、宮廷や教会が主なスポンサーとなって音楽が文化として長らえてきましたし、それ以降も政府や個人、企業などの支援がなければ、オーケストラやオペラは成立していないのです。

音楽家の端くれとしてこの事態を傍観している訳にもいかないので、メールを送るなど、とりあえず自分にできることはしましたが・・・やや複雑な心境です。

それは、「それじゃあ、他の事業についてはどう思うの?」という自問に明確な答えができないからです。

今回の「事業仕分け」、やった中身についてはともかく、試みとしては十分に面白いものでした。しかし聞こえてくるのは、仕分けの俎上にのぼった関係者の怨嗟の声ばかりです。報道で盛んに取り上げられたものは限られています(スーパーコンピューターなど)が、およそ「自分で稼げないものはなで切り」状態だからです。

しかし、自分の関係する事業について反対の声を上げている人たちは、他の事業に付いても同様に反対の意思表示ができるでしょうか。私が引っかかってしまったのは、この部分なんです。

「マイナースポーツの選手は、手弁当で練習して、自費で海外遠征している。もっと助成が増えないと、多くの人に知ってもらって競技人口が増やすことができない」と必死に訴えていたアスリートがいましたが、「そんな人気のない競技、別に広めなくてもいいじゃん」という声も聞こえてきそうです。

しかし、そういう人から見れば「音楽なんて贅沢なものに税金をつぎ込むのはやめてくれ」と言うかもしれません。それに私たちはどんな反論をすれば良いのか・・・

かといって、全ての事業を要求通りに行なうならば、今までの無駄はなくなりません。スポーツや文化にくらべて、公共事業の方が切実な問題かもしれません。もっと言うならば、失業対策や生活保護の方が優先されるべきでしょう。

もちろん、過去の自民党政権や官僚支配が、自分たちの利権を温存することだけに熱心だったために、これだけの財政赤字を積み上げ、恒常的に無駄を垂れ流す強固なシステムを作り上げてしまったことに問題の本質があることは明らかです。生涯賃金が5億を超えるような高級官僚に、天下りでさらに2億も3億もの税金を与え続けるシステムを作り上げ、3年大使をやれば都心に邸宅を構えることができる大使を次々と量産し、当選すれば何億でも借金が返せるような政治のシステムを後生大事に守ってきたことが、これだけの無駄と赤字を恒常化してしまったのですから。

しかし・・・心の中のもやもやしたものはどうしてもなくなりません。

[ 2009/12/17(木) 22:13 ] 音楽的主張| コメント(0)
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