柏木真樹 音楽スタジオ

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02
Mar.
2017

 去る2月12日から16日まで、クレモナに行ってきました。少し時間が経ってしまいましたが、レポートをしようと思います。

 今回は、この秋にワークショップをすることができるかどうかを判断するためのミーティングや製作家との交流、新しい楽器についての意見交換など、かなり盛りだくさんな内容でした。昨年9月のワークショップについては、現地の製作家、製作家の団体、博物館や他の財団などからの高評価をたくさんいただいたのですが、問題も山積みで、うまくいかないと開催そのものも危ぶまれる可能性があります。慎重に、しかし前向きな姿勢を忘れないで臨みました。

1日目のミーティングの後にお気に入りのレストランで景気付け

1日目のミーティングの後にお気に入りのレストランで景気付け

 ワークショップ自体については、私が想像していた以上に評価してくださった製作家が多かったのはとても嬉しい誤算でした。それぞれにプライドを持った製作家たちが、どのくらい「自分の再評価」を受け入れてくれるのかが全くわからなかったからです。しかし、自分の楽器をさらに良くしようという熱意を持った製作家の楽器は、昨年見せていただいた時より明らかに良くなっているものが多く、それがとても嬉しいことでした。また、単なるセットアップだけでなく、製作に踏み込んだ議論も少しずつ始まりました。もちろん、私は素人ですので、制作に関わる話はあくまで製作家主体で話が進むべきものです。それを前提として、「どんな楽器ができるのか」について大いに議論をすることができました。

 

 

 現時点でははっきり書けないのですが、最大の問題は相変わらず残ってしまいました。しかし、そのことについても、クレモナの製作家の重鎮たちから貴重な助言をいただくことができ、少しばかりですが明るい展望も見えてきました。しかし、滞在時間が短かったこともあり、お伺いしたかった工房をいくつか取り落としてしまいました。戻る時には「もう2日あればなぁ・・・」というのが正直な感想です。

レヴァッジさんの新作楽器を試奏。とても良い楽器でした

レヴァッジさんの新作楽器を試奏。とても良い楽器でした

 

 

 

 

 2015年に初めてクレモナを訪れた時には、自分自身がこんなにクレモナに「はまる」とは思っていませんでした。「イタリアの新作楽器は出来の割に高すぎる。日本で買うべきではない」と固く信じていたからです。それが何故こんなことになってしまったのか・・・自分でも良くわかっていないのですが、「何かが起こるはず」という漠然とした「でっかい期待」は、クレモナに行くたびに膨らんできます。最終的な到達点はまだ見えませんが、できる限り続けていきたいと思っています。

 

 

 

 

 

すっかりお馴染みになったDeghi Archiのシェフと

すっかりお馴染みになったDeghi Archiのシェフと

 

 

 

 

 変わったことと言えば・・・食事も大きく変わりました。クレモナに行くたびに、製作者たちがあちこちに連れて行ってくれるので、クレモナ市街地にある有名どころはほとんど制覇してしまったようです。(正確には、あと2軒、行きそびれているところがあります)食事の内容も、最初から比べると格段にアップ。でも、値段は(1軒を除いて)あまり変わっていません。やはり、だんだん目利きができるようになってくるものですね(笑)

 

 

 

 

 すっかりお気に入りになってしまった「Osteria Degli Archi」では、4日のうち2度の夕食を摂りました。1日目はシェフが不在で(「ごめん、昨日は近くの家に呼ばれて出張シェフをやってきた」だそうです)、寂しいのでもう1日追加。「昨日これこれを食べただろ」と報告を受けていたようで「メニューにないものを作るから」と言ってもらい、primoはTorteri(チーズの入ったオーソドックスなもの、かと思ったら仕掛けがありました)を特別に作ってもらい、最後はカクテルをご馳走になってにっこり。次回も必ず行きます。

 今回は、クレモナ市街で最も高くて美味しいとされる「Il Violino」にも行けました。高いので自分では・・と思っていたのですが、思いがけずしっかりランチをご馳走になってしまいました。女性のメニューには値段が書いていない「ホンモノの」リストランテで、メートル氏がいちいちしっかり「Sir、や、Maestro」などとつけて返事をするところも、グランメゾンみたいです。値段は・・・クレモナの物価に慣れている目には「・・・・」でしたが、「なんでも食べて」と言われて、メインはつい「ロッシーニ風のフィレステーキ」に手を出してしまいました(笑)大変美味しゅうございました。

私が注文したもの。脂とコラーゲンで食べきれず・・その他も「濃い」料理ばかり

私が注文したもの。脂とコラーゲンで食べきれず・・その他も「濃い」料理ばかり

 

 もう一軒、驚いたのは「クレモナ伝統料理」の店でした。クレモナでは一番有名だが観光客は決して行かない(苦笑)ディープな店です。各所の内臓、鳥のトサカ周辺、子羊の頭、延髄などの料理があり(普通の肉料理はほとんどない)、私が注文したスープも「とんこつラーメンか、お前は」というくらい濃厚なもの。これはこれで美味しかったのですが、量を食べるのは困難・・・もっとも、もはやクレモナ人化した若手の製作者や高橋さんは「普通に美味しいよ」といって食べちゃうみたいですが(笑)

 

 

 

 

中庭から1Fを望む。とても趣のある建物です

中庭から1Fを望む。とても趣のある建物です

 

 

 

 また、今回は新しいホテルに泊まりました。定宿にしていたAstriaが閉鎖になってしまったので代わりを探していたら、予約が取れないことで有名なLocanda Torriani(https://www.tripadvisor.jp/Hotel_Review-g187831-d2289011-Reviews-Locanda_Torriani-Cremona_Province_of_Cremona_Lombardy.html)が運良く取れたのでそちらに泊まりました。

 

 

 

 

シンプルな朝食ですがホンモノです

シンプルな朝食ですがホンモノです

 Locanda Torrianiは、アパートメントホテルに分類されるホテルで、部屋数は多くありませんが内部が2部屋になっている部屋が多く、室内に台所もあり、何人もで泊まるととてもお得です。建物は昔の貴族の館を改造したもので、清潔感があり、とても趣があります。イタリアのホテルにしては珍しく水周りもしっかりしている印象です。ユースオーケストラのツアーや合宿などでも使われていて、人気が高く、予約はかなり前でないと取れないのです。 ご主人は優しい感じで、おかみさんは「おっかさん!」という感じの方。とてもフレンドリーで、ほっとする宿です。

 人気の理由は、朝食にもありそうです。夜はレストランとして営業していて、こちらも予約が取りにくくて有名ですが、朝食は「とても良くできたヨーロッパの宿の朝食」なのです。Astriaは卵料理や肉料理の種類が多くなかなか気に入ったのですが、Torrianiは内容がとても良い。ジュースは搾りたてで、ハチミツやジャム、紅茶(20種類くらいから選べる)はほぼ有機のものでしかも美味しい。卵もまとも(これは珍しいそうです)なもので、何よりパンが美味しい(クレモナにだいぶ馴染んだ私ですが、レストランのパンだけは・・・が多いのです)。コーヒーも一番美味しいかもしれません。Astriaが再開したら、泊まるところに迷うかも・・・

 

 

 今日は、クレモナの「雰囲気」について少し書いてみたいと思います。

文章と合いませんが・・「濃いクレモナ料理」の店で。シェフとお世話になっている製作家のアルドリーと

文章と合いませんが・・「濃いクレモナ料理」の店で。シェフとお世話になっている製作家のアルドリーと

 

 

 クレモナに慣れてくると感じるのは「妙な落ち着き方」です。「ヨーロッパの田舎町はどこでも落ち着いた感じだよ」というのはよく言われますが、クレモナは決して「田舎町」ではありません。日本の都市に比べるとクレモナは「ものすごーく田舎」に感じるのですが、一応県都(ロンバルディア州クレモナ県)で、人口も8万近くあります。駅は「どこの田舎だ?」という感じですし、電車もミラノ直行は2時間に1本しかないし・・・なのです(笑)

 

 

 

 

Torrianiの室内。絶賛打ち合わせ中

Torrianiの室内。絶賛打ち合わせ中

「妙な落ち着き方」と書いたのには、言葉にしにくい雰囲気があります。まず、「田舎」というには都市であるにもかかわらず、田舎のようなのんびりさがあります。カバンを横に置いて談笑していても全然平気(やらないでくださいね)。ちょっとでもまごついていると、バーでも街中でも気軽に声をかけてもらえる(僕より女の子の方が・・・であるのはもちろんです。イタリアですから)。レストランでも、片言でも全く問題無し。グーグル翻訳にはだいぶ助けてもらっていますが(笑)しかし、単なる「田舎の落ち着き」とは違います。週末になると中央の広場周辺では、毎週のように自然発生的な「街コン」が行われています。パッと見たところ、1000人以上の若い男女がバールで飲み明かしているのです。これはクレモナ(イタリアの他の地方でも)では伝統的なものらしく、パートナー探し、だそうです。出会いを求めて周辺から集まった若者の熱気で、特に暖かいシーズンの週末はお祭り状態。それだけ人が集まることが普通なのに、田舎のような落ち着き。そして、街の人々からは、クレモナ人であることのプライドすら感じることがあります。

 街を歩くと、イタリア人ではない人がとても多いのに気がつきます。そりゃそうですよね、クレモナで楽器製作に携わっている/勉強しているのは世界各地から集まった人たちや家族で、日本人だけでも100人以上はいそうです。最近は中国人や韓国人も多く、アジア系だけでも相当な数。それが狭い街に集まっているのですから。それでも「イタリアの田舎街」っぽい。一度いっただけのレストランの女将さんに街中で声をかけられて右往左往したことも(なにせ、英語が単語一つも通じない/苦笑)。そうなんです、クレモナを本当に理解するには時間がかかりそう。

 次に行く日程は未定ですが、まだまだ飽きるには時間がかかりそうです(笑)

 余談ですが、航空会社はいつもエミレーツを使っています。3大アライアンスに加盟していないために、さまざまなカードでマイルが貯められない、という弱点はありますが、両方が深夜発なので、乗り継ぎを考えても時間が有効に使えるからです。機体も新しく(羽田発着以外は4月からすべてA380になるそうです。現状ではドバイーミラノはA380)サービスも悪くないと思います。そういうわけでほぼ満足していたのですが、今回の帰りから余禄がつきました。いわゆる「frequent traveller」扱いで、チェックインなどがビジネス扱い。ドバイのビジネス用の待合室も使えます。ビジネスのチェックインカウンターは、エコノミーよりも空いているだけでなく、笑顔も心なしか優しい感じ。もっとも、お金がないので座席はエコノミーのままですが(笑)

 そんなわけで、今回も収穫いっぱいのクレモナでした。

[ 2017/03/02(木) 16:23 ] クレモナレポート, | コメント(0)
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