柏木真樹 音楽スタジオ

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29
Apr.
2020

(1)私の状況から


緊急事態宣言が4月7日に発出されてから20日が経ちました。61年の人生で感染症によるこれほどの事態は初めてのことです。みなさんの生活にも大きな影響が出ていると思いますが、思うことがあっていくつかのことを書いてみようと思います。

ブログを読んでくださっている方はご存知だと思いますが、私は東京の駒込で音楽スタジオを経営しています。経営しているといっても会社組織ではなくあくまで個人事業主です。主にレッスンを行うと同時に、各種の講習会、アンサンブルのレッスン、そしてサラサーテなどへの執筆が私の仕事です。今回の事態でこうした立場の人間の弱さを思い知りました。

私を直接知っている人ならわかると思いますが、私はかなり「傲慢」なところがあります。私自身のレッスンや著述に関しても「正しいこと、勉強になること、興味があることを発信し続けていけば何とかなるはず」という自信がありました。私自身が音楽家の道を一度ならず諦めた人間なので、音楽で食べることの難しさはよく知っています。しかし、分不相応ともいえるスタジオを都内に構えることが出来、そしてたくさんの生徒に恵まれてきたことは、私自身の方向性が正しかったことを示してくれていると考えてきました。これまでの音楽の世界の常識に反すること(初学者はメトロノームを使うな、ピアノに合わせて音程を取るな、などさまざま)をたくさん情報発信してきましたが、これらは正しいことであると今でも考えています。自分の道を自分で作れば何とかなるはずだ、という思いで仕事を続けてきました。

しかし、今回の事態は私の活動が根本から覆ってしまう可能性があるものです。私の命綱であるスタジオの維持にはそれなりに費用がかかりますが、生徒が来ることが出来なくなればたちまち立ち行かなくなるからです。多くの生徒がぎりぎりまでレッスンに通ってくださり、今でも「行きたい」と言ってくれる人も少なくありませんし、スカイプなどを利用したレッスンも少しずつ増えています。しかし、それだけではこの規模のスタジオを維持することはできません。

「外出や人に会うことを減らそう」という掛け声がかかった当初(2月末)には、事態がここまで来るとは思っていませんでした(その理由は後述します)。しかし3月の半ばを過ぎて(安倍首相が「ここ2週間が山場だ」とのたもうた期間が過ぎた直後)、これはただ事ではないことを認識しました。イタリア、特に私が通っているクレモナの状況がとんでもないことになってしまったこともありますが、3月末には「これは6、7月までの長期戦になるな」と思うようになりました。

その時点では、会社組織ではない個人事業者が救済される道はほとんどありませんでした(中小企業、というくくりから外れたものを救済できる方向性が示されていなかった)が、次第に個人事業主の救済まで範囲が広がってくれました。しばらく頑張れば何とかなるかもしれない、というかすかな希望が見えてきた時期でもあります。そして東京都が「協力金」という形で個人事業主にも救済の手を差し伸べる(私のスタジオが該当することは確認をしました)ことになって、かすかな希望が「何とかなるのではないか」という期待に広がりました。現時点では、さまざまな救済処置をうまく利用すれば、8月くらいまでは耐えられる状況になっています。

実は、ここまでが「前提」です。言いたいことはこの先にあります。

「新型コロナ」で思ったこと(2)パチンコ店バッシングから見えてくること

ここ数日、自粛要請に従わないで(守らないで、とは書きません)営業を続けているパチンコ店が槍玉に上がっています。集客施設には営業自粛を要求し、飲食店には時短営業を要請しているわけですが、パチンコ店へのバッシングにはものすごく気持ちの悪いものを感じます。パチンコ店がなくなって私自身が困ることは全くありませんが、自分自身がスタジオの運営をどうしようかと途方にくれた一時期があっただけに、今回の「自粛要請」とその後のマス・ヒステリーには薄ら寒さを感じます。ナチス・ドイツ施政下でユダヤ人、そして社会主義者が弾圧された時、ドイツのキリスト教会は自分たちに関係あるととらえずに黙認していました。それが自由主義者への弾圧に広がり、最後に教会の活動にもその監視と圧政が及んだ時、ナチスの行動を自分に対するものと捉えられなかったことを厳しく自己批判をしました。当時のキリスト教会にはみずからの想像力と批判精神の欠落を悔いたのです。この「想像力の欠如」こそ、今の日本の混乱を引き起こした根本的な原因であると思っています。

私の仕事は、まさに「不要不急」のものです。私のスタジオが潰れたところで、痛みを共有してくださる方は(確実に存在するとは思っていますが)日本の人口からすれば微々たるものでしょう。仮に保証もなしに「閉めろ」と言われれば、私はぎりぎりまでスタジオを開いて自分の城を守ろうとしたかもしれません。その行動が非難されようとも、そうせざるを得ないからです。こうした状況は、多くの飲食店なども同様です。

飲食店の対応もさまざまです。完全に営業を休止しているところもあれば、時短に応じているところもあります。しかし、一部の「超人気店」の中には、これまで通りの営業を続けているところもあります。パチンコ店へのバッシングの趣旨に従えば、こうした店も弾劾されるべきものでしょうね。しかし(おそらくそうした店は「偉い人」も使っているでしょう)そうした店に対する大きな非難の声は聞こえません。

問題は多岐に渡ります。営業自粛に従うことが経済的な死に直結するなら営業を続けるしかない、と考えるオーナーもいるはずです。そうした人たちを私はとても非難する気にはなれません。保証もなく(十分ではなく、も含む)、いつまで続くかわからない自粛(これは政府に大きな失敗と責任があります。後述します)を続けろ、ということは、経済的に死ね、というに等しいからです。せめて休業期間の保証が行き渡れば、経済的な死を恐れなくて済むのです。「休業補償はしない」と政府がきっぱり言っている以上、自分の身を自分で守ろうとするのは止むに止まれぬ行動ではないのでしょうか。

ネットでパチンコ店を非難している人の中には、大企業に勤めていて自分は給料を保証されている人がたくさんいます。そうした人が「みんなが感染を広げない時に我慢しているのに従わないのはけしからん」と書いているのを見て、この人たちの想像力の欠如が悲しくなりました。外出の我慢? オーケストラやアンサンブルの練習の中止? 行きたかったコンサートの中止? それを「自分は我慢している」と感じて飲食店やパチンコ店のぎりぎりの選択を同列に扱うのは、自分の身に降りかからないと危機感を感じないという想像力の欠如以外の何ものでもありません。これは原発の事故でもはっきりしていたことです。

もちろん、感染の拡大を防止するためには、集客施設は閉めてしまう方が良いに決まっています。私自身もそうしたところに近づこうとは思いませんし、だからこそスタジオの閉鎖を決めました。しかし今でも営業をしている多くの店は、「閉められるものなら閉めたい」と思っているのです。そうさせない理由は、政府や地方自治体の姿勢にあるのです。

飲食店の営業自粛要請などは、その最たるものだろうと思います。午後8時以降は感染が起こりやすいのでしょうか。それ以前なら安全なのでしょうか。アルコールを19時までに出し終われば感染しないのでしょうか? 飲食店と喫茶店のどこが違う? 一体どこに基準があるのでしょうか。安倍夫人自らが3月に入ってからも10人以上の会食をしたり、50人規模の参拝をしたりとやりたい放題なのに(自粛の基準に当てはまらないから問題ない、という首相自らのお墨付き済みです)、弱いものには強力な規制をかけようとする理由は何なのでしょうか。

年間の自殺者は2019年で約2万人。ピークだった3万5000人に比べるとずいぶん減ったような気もしますが、それでもかなりの数です。宗教の影響などもあり簡単な比較はできませんが、自殺率はG7中で最悪です。さらに、自殺者数と失業者数の間には明らかな同期があり、「失業者が増えれば自殺者が増える」ことははっきりしています(資料多数:一例としてNTTコムリサーチの記事https://research.nttcoms.com/database/data/000585/)。「損失保証はしない」と言い切る政府の下で、これからどれだけの企業が倒産し、どれだけの失業者が溢れるのかを想像すると恐ろしくなります。

繰り返しますが、私は外出自粛をすること自体を問題視しているのではありませんし、自分自身も十分に注意しているつもりです。自粛要請にともなう保証がない人たちがいることが問題なのです。感染拡大を増やすことは緊急性がある重要なこと。しかし、そのために必要なことをほっぽらかしてはならないのです。問題のパチンコ店でも、大手のチェーンはすぐに店を閉めました。これは飲み屋のチェーンでも同じです。なぜか。規模が大きくて「潰せない」からそれなりの手厚い保証を見込めるからです。その保証の網からこぼれた人は、自分の身をどうやって守れば良いのでしょうか。

私は東京で仕事をしているので、東京都の協力金を受けることが出来そうです。東京都は財政的に余裕があるのでこうした手法をとることができるのだと思います。それができない地方では、事態はもっと深刻でしょう。

[ 2020/04/29(水) 08:59 ] 日記, 未分類| コメント(0)
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