横浜の「山手プロムナード・コンサート」の一環として、2月11日から14日まで「横濱・西洋館de古楽2010」が行なわれました。山手の「山手聖公会」や「イギリス館」「ベーリーック・ホール」などでの連続演奏会です。その中のひとつ、「ソフィオ・アルモニコ」のコンサートを聴きにいきました。
「ソフィオ・アルモニコ」は、ルネサンス・フルート奏者4人のアンサンブルです。ゲストとしてバロック・ハープで鷲崎さんが参加され、コンサートを紹介していただきました。浅学な私の知識は、ルネサンスの音楽の特徴は「中世から発達を始めたポリフォニー全盛と、協和音程(純正音程)への注目、三度の導入」程度のシロモノで、実際にポリフォニーの音楽を意識して聴いたこともありませんでした。そういった意味で、とても興味深いコンサートでした。
ルネサンス・フルート(参考写真/ルネサンス・フルート)は、穴が6つ開いただけのシンプルな作りの楽器です。基本的に教会旋法を使いますので、ピアノの白鍵分の数があれば良いわけですね。長さがいろいろ(ということは、高さがいろいろ、ということ)あり、3ないし4本でアンサンブルを聴かせてくれました。
演奏された曲は13世紀から16世紀(一部17世紀)のものでしたが、ルネッサンス期には器楽曲はほとんどなく、演奏された曲目もほとんどが歌曲です。ルネサンス・フルートには、詳細な演奏法が残されておらず、どの楽器をどのように使うか、という「スタート」から試行錯誤を重ねているそうです。
聴いて一番強く残った印象は「予想がつかない心地よさ」でした。
調性音楽であれば、和声進行で「先の予測」がつきます。聞き慣れているバロック以降の音楽であれば、初めて聴く曲であっても「次はこうなるぞ」というイメージができるのです。そして、そのイメージは音楽を聴いて「心地よい」と感じる大切な要素でもあります。しかし、和声感がない音楽は(もちろん、部分部分では和音の響きはあります)そうした予想機能が部分的にしか働かないのです。
和声感が感じられない中では、旋律、旋律(旋法)の色合いや複数の声部の重なりなど、和声以外の働きが心地よさを感じる大きな要素になっているはずなのですが、これは実に「自然な」心地よさでもあります。音楽に対してこのように感じたのは、実に久しぶりだったように思います。
興味深かったのは、13、14、15世紀の曲を順番に2曲ずつ演奏したブロックでした。明らかに音楽の質が違う。特に印象的だったのが、和音です。
13世紀のものは、ほとんど和音を感じません。「和声を感じない」のではなく「和音を意識しない」のです。ところが、14世紀のものになると、ところどころに「韻を踏むように」和音を感じるところが出てきます。5度や8度は楽曲の終止で現れますが、途中に3度が現れ始めたのもはっきりとわかります。さらに面白かったのは、3度が「偽終止」のような効果を感じさせたことです。曲の途中で三度が「韻を踏むように」わずかに強調されるところがあるのですが、三度に慣れた現代の私の耳にも、完全に安定した雰囲気にはならず、後に続くイメージが強く残ります。もちろん、曲は進行します。
たくさんの曲を聞き比べた訳ではないので、あくまで今回の演目に限ったことではありますが、時代の違いを比較的はっきりと感じることができたように思います。そのような選曲をされたのかもしれません。
残念だったのは、プログラムと解説です。プログラムには出演者のインタビュー、コンサートの中では楽曲の説明や研究者の解釈などがありましたが、逆にしてほしかったと思いました。説明に出てきたような同時代の作曲家や詩人、研究者の名前などは、説明を受けても覚えられず、後から調べようと思ってもかないません。こういった情報は紙に書かれているほうが親切でしょう。せっかく聴かせていただいたお話が、無駄になってしまいます。
5月にまたコンサートがあるようですが、ルネサンスの音楽に興味がある方は聴かれたら面白いと思います。