柏木真樹 音楽スタジオ

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テンポを安定させるために、メトロノームで練習することは役に立つか、というのがもともとの命題です。メトロノームで練習することの意味や、インテンポって何だ?ということを何回か書いたのですが、それをリメイクしました。

インテンポとメトロノーム

メトロノームを使って練習をするか、というと、私はめったにやりません。なぜなら、メトロノームを使って練習しても、テンポが直ちに安定するようにはならないと思っていることが一つ、「音楽的なインテンポ」を殺してしまうような気がするのが一つ、です。

「音楽的なインテンポ」とは何か、というと、物理的にテンポが一定であるのではなく、音楽的に自然な安定したテンポ、のことです。どんな音楽でも(バッハやモーツァルトなどの古典派と呼ばれる作曲家の曲でも)、物理的に一定のテンポと音楽的なインテンポは違う、と思っています。音楽的なインテンポで演奏されているときは、フレーズによって、また音の配列や和声によって、微妙にテンポがゆれているのが実際だと思います。それは、「リタルランドする」とか「速くする」ということではなく、人間の感覚に心地よい安定感を感じる揺れです。

道を歩くことを想像してみてください。舗装された平坦な道を歩いている時は、何か特別 の事情がない限り、一定の速さで歩くことができますし、それが「きもちいい」はずです。しかし、大きな段差があったり、坂道があったりすると、歩く速さは一定にはなりません。大きな段差を上るには少々の時間がかかるでしょう。音楽の流れも、これと同じことだと思います。

以前、あるヴァイオリンの先生に、「大きな音の跳躍をするときにはそれなりの時間がかかるはずです。それを無理にインテンポで行こうとすると、物理的にも無理がきますし、音楽的にも正しくないことが多い」ということを教わったことがありました。この場合につかわれている「インテンポ」という言葉は、物理的に一定のテンポを指していますが、話の内容は同じようなことでしょう。

もちろん、物理的に一定のテンポで進行するのが音楽的に「きもちいい」のに、技術的な原因でテンポが安定しないのは困ります。メトロノームが使えるのは、このような場合と、「単にスキルをアップする」場合に限られている、と考えます。めったやたらにメトロノームを使った練習をするのは考えもの、だと思います。