柏木真樹 音楽スタジオ

トップページ > 音楽を教えるということ > 音楽教師の資質1…生徒と先生の相性 〜発表会を見て先生を判断する法

音楽を教える、楽器を教える、ということがどういうことなのか。とても大きな問題です。最近、ある先生にとても腹がたったので、以前から思っていることを書いてみる気になりました。

その先生は、芸大出身のヴァイオリンの先生です。生徒さんもたくさんいて、大にぎわい。縁あって、その先生のお弟子さんの一人を、何回かレッスンすることになりました。この生徒さんは、まじめに練習をするのですが、どうも「音楽する」ということに楽しみが感じられません。本当に楽しんでいないのか、楽しみを表に出さないのか、楽しみを表現することが下手なのか、まだわかりません。でも、とりあえず、「こうやって弾きたい」という欲求が見えるところには至っていません。

何事でも、初めは「模倣」が大切です。いろいろなものを「マネ」て、自分の感性を磨いていき、そして自分のスタイルを創っていきます。ただし、「模倣」はあくまで過程であって、それを「持つべき感性として押しつけては」なりません。それは、音楽に限らず、教師が一番してはいけないことだと思います。この「模倣」の段階にある生徒さんを教えるときは、先生はとても神経を使います。「こうして弾いてごらん」という「模倣」の例示をしつつ、その生徒が自分の個性を殺さないように、とても難しいバランスが必要です。

ある生徒に曲を選ぶときに、先生の資質が表れます。どれだけたくさんの曲を知っているか、その生徒がどのような技量 を持っているか、その生徒が一生懸命になれる物は何か、そして、その生徒の感性を磨くことのできる曲は何か、そういったことをすべて考えて、生徒に曲を「託し」ます。

その生徒さんが発表会用に与えられた曲は、タルティーニの「悪魔のトリル」でした。それを聞いて、「うーん、大変な曲をもらったなぁ」と思いました。恐らく、1,2楽章だろう、と思ったからです。

この曲がどのような難易度の物なのかわからない方のために、ちょっと乱暴な比較をします。難しいのは、2,4楽章です。1楽章が「三桁のかけ算」とすると、2楽章は「連立方程式」くらい、難しくなります。その生徒さんの技量 から、連立方程式にはかなり苦戦するだろうな、と思っていました。ところが・・・発表会の後で話をきいたら、なんと1,4楽章を弾かされた、というのです!!!先ほどの例であてはめると、4楽章は微分方程式くらいの難しさでしょうか(^ ^;;もちろん、音楽的な難しさは技術的な難しさに比例しませんが、そもそも連立方程式を習い始めた生徒に微分方程式の「試験」を果たすようなもの、ということには変わりありません。

先生がどういうつもりでこの生徒さんに曲を与えたのかはわかりません。しかし、先生もこの生徒さんの親も、「相性が悪い」と感じていたそうです。しかし、生徒と先生の相性ってなんだ?百歩譲って相性が悪いから教えにくいとしても、だから中学2年生の試験に微分方程式を出題するかぁ(^ ^;;

発表会のできは、もちろん「散々」だったそうです。ほとんど何を弾いているのかわからなかったらしい。当然でしょうね。

こんな先生は例外かもしれません。しかし、先生と生徒の「相性」ということは、よく耳にします。しかし、大人を教えるならともかく、子どもを教える先生にとって、「相性」という言葉はたんなる言い訳にしか聞こえません。

先生の資質は、発表会を見ればおおかたわかると思います。念を入れて、2回か3回、続けて聞いてみれば、ほぼ判断できます。

まず、生徒さんたちの多くが同じ弾き方をしている先生は見込みがありません。恐らく、自分が習った演奏法しか知らないか、それ以外の教え方に思いを寄せる柔軟性に欠けている先生です。生徒の個性(個性というのは、感性だけでなく、フィジカルな意味も含めます。)を勘案する力のない先生です。こういう先生についたら、「とっても幸運なことに、先生と同じ体格と筋肉と感性を持っている」生徒さん以外にとっては、音楽が苦痛になるでしょう。それも、生徒さんがまじめであればあるほど。

続けて聞いて、ある生徒さんだけが上手になっている先生も危ないと思います。「あの子はのびてるよね。でも他の子どもはあんまり上手くなってないわね。伸びる子どもがいるということは、先生はいいのに、他の子どもたちはだめねぇ。」これが落とし穴。優秀な子どもは、ある程度キャリアのある先生になら、誰についてもある程度伸びます。いっちゃ悪いけど、教えなくたってある程度は勝手に伸びる。それが、上手にならない子どもの側の責任になっている。これは本末転倒です。

この二つの例は、先生が「この子とは相性が悪い」といって「逃げる」典型例です。

リスナーのために、ちょっと違う角度で例を出します。パールマンとズッカーマンとチョン・ファ・キョンのヴァイオリンを聞いて、「やっぱりガラミアンはこういう演奏をしたんだなぁ」と想像がつくでしょうか。これが肝心。

私が敬愛してやまないヴァイオリンの先生の発表会は、本当に「見物」でした。誰一人として同じ弾き方をしていない(^ ^;;でも、みんな「おもいっきり」弾いていました。

最後に、「演奏している子どもたちが、本当に楽しそうに見える先生」は、きっと良い先生です