柏木真樹 音楽スタジオ

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今年も、発表会でチェンバロとのアンサンブルをやります。とても「贅沢な」ことなのですが、昨年やってみて、楽しいだけでなくさまざまなことを考えさせられたことが、再びやってみたくなった理由です。

ヴァイオリンの音を作る大切な要素に、音の立ち上がりと弓のスピードがあります。私は通常、ボウイングのトレーニングを、子音を付けた音が基本になるように教えています。子音のあるなしは、音の立ち上がりの明確なさになって現れるからです。子音がない音は、立ち上がりが鈍く、ホールで通らない音になりやすいのです。同様に、弓のスピードもとても大切なものです。弓のスピードを使えないと、速い曲が弾けないだけでなく、音そのものが曖昧なものになってしまったり、アクセントなどをプレスでつけるばかりになってしまったりします。

もちろん、音の立ち上がりに必要な子音は、楽器や弓が現在のようなものになってから使えるようになったものです。バロック弓とガット弦では、はっきりした子音をつけることは困難だからです。問題は、ここからです。

私自身、かなり長い間「勘違い」をしていたのですが、上記のような理由で、古典派以前の音楽は、子音のない、はっきりしない立ち上がりで演奏されてきたと考えていました。ですから、古典派以前の曲をモダン楽器で演奏する時には、当時の音よりも楽器の差を考えて、比較的ハッキリした子音を付けて演奏するものだと考えていたのです。中途半端な古楽の演奏を聴いて、バロックは後から音が大きくなる「ぼわっとした」ものであるかの印象を持っていたことも、ひとつの原因でしょう。

10年と少し前に、あることがきっかけで、自分の考え方の過ちに気がつきました。バロック弓とガット弦でも、弓のスピードを使うことで、子音に負けない立ち上がりが得られることを知ったからです。それからかなり長い間、どうしたら古典派以前の曲を「それらしく」演奏できるか、考えていました。それがある程度納得できる結論になったのは、三年前のことです。自分自身のボウイングの改造にとりかかったのも、それがひとつの理由でした(もっとも、改造自体は、よりモダンな考え方になったのですが・・弾き分けられることが必要であることに気がついたからです)。

そうしてみると、弓のスピードを生徒に要求するためにはどうしたらよいか、ということに悩み始めました。自分でやってみせたり言葉で説明したりはしていたものの、どうも生徒にイメージが完全に伝わったとは思えなかったからです。

昨年、チェンバロとのアンサンブルを発表会に取り入れて、この問題の解決に大きなヒントをいただいたように感じました。チェンバロという、弦楽器と親和性の高い楽器とのアンサンブルが、弓のスピード、特に初速の重要性を教えてくれたからです。

というわけで、今年もチェンバロとのアンサンブルが、たくさん予定されています。その中で、参加した生徒さんたちができるだけ多くのことを得てもらえたら、こんなに素敵なことはありません。

それにしても・・私のわがままな要求に応じていただいたチェンバリストと、大切な楽器をレイトスターターが中心である発表会に貸し出していただいている古典楽器センターには、感謝の言葉もありません。今年も、そしてこれからも、どうぞよろしくお願いいたします