柏木真樹 音楽スタジオ

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のアーカイヴ

耳を鍛えることは、全ての楽器を演奏する(歌を歌う)ためにどうしても必要なことです。そして、多くのレイトスターターが悩みに悩んできたことでもあります。私自身の経験から、大人がどのように耳を鍛えたらよいのかということと基本的なヴァイオリンの音程感覚についてを、今回以降数回にわたって述べてみたいと思います(純正、ピタゴラス、平均律などの言葉については、今号から連載が始まる川島史子先生の音律の話を参考にしてください)。

またこのことは、「なんとなく音程がしっくりこない」「音程が素人臭い演奏がなんとなく素人っぽい」という悩みを抱えていらっしゃるアマチュアの方にも是非知っていただきたいことでもあります。(演奏が「素人っぽい」と感じられている方の多くが、奏法・ボウイングや音楽的な問題が原因だと考えていらっしゃいますが、実は音程も大きな問題である場合が非常に多いのです)。美しくきびきびした、弦楽器らしい音程を知るために、微力ながらお役に立てるのではないかと考えています。

絶対音感は必要ない

日本の「音感教育」は、残念ながら「音高を記憶する」ことに比重をおいてきました。これが「絶対音感信仰」などにもつながっているのだと思います。すなわち、「音の高さをしっかりと覚えることが楽器を演奏するために必要なこと」という考え方です。この思想に従えば、大人から楽器を始めることは無駄なことになってしまいかねません。なぜなら、「音高を正確に記憶する」すなわち「絶対音感をつける」ということは、ほとんどの大人には無理な要求だからです。研究者によって限界とする年齢の差がありますが、遅くとも6才を越えてからはこの能力をつけることはできない、というところとの結論では一致しているようです。 (さらに…)

「大人になってからヴァイオリンを始めても、身体が固くなっているからどうせあまり上手にはならない」とあきらめている人がたくさんいらっしゃいます。もちろん、子どもの頃から真剣に学んできた人たちと互角に張り合うのは大変だと思いますが、私は、あまりにもその「限界」を低く捉えている人たちが多いように感じてきました。今回は、私がこれまでに出会ってきた現実の事例を踏まえながら、楽器の保持法と左手の形のことを例に、「限界が早く来てしまう理由」の一端を考えてみたいと思います。

「ヴァイオリン奏法」と銘打った本などをみると、写真やイラストで楽器の奏法を詳しく説明しています。そういった本を読むと、書かれていることがすべてその通りにできないとヴァイオリンは弾けないかのように読めてしまうことがあります。果たして本当でしょうか?

ここに一冊の非常に有名なヴァイオリン奏法についての本があります。この本の冒頭、「奏法は体型も異なるのだから十人十色」という主旨のことが書いてあります。しかし読み進めると、「楽器は身体から約45度の角度に構えるべし」という記述に出会います。さらにボウイングの項では、手首の働きを「移弦・弓の返し」で使われるものと規定しています。しかし、身長が150センチを下回るような小柄な方がヴァイオリンを弾くとき、この楽器の角度とこのタイプのボウイングシステムではどうやっても弓先は使えません。もちろん、四分の三以下の分数楽器を使えば良いのかもしれませんが、それでは合奏するときに大きなハンデキャップになるでしょう。フルサイズ(場合によっては八分の七などのいわゆるレディスサイズの楽器)を使えるようにならないと、アンサンブルに参加するようになって大きなギャップに悩まされることになります。このような場合、ボウイングシステムを慎重に選ぶことが大切ですし、楽器を構える位置をやや身体の正面に近くすることも必要です。こういった問題は他にも多数あります。 (さらに…)

「ボウイング筋」という言葉は、もちろん正式なものではありません。以前レッスンに付いたある先生に「ボウイング筋が落ちているからトレーニングしないとダメよ」と指摘されたことがあり、それ以来使わせていただいている言葉です。正確には、背中の左右、肩甲骨の内側にある「腕を持ち上げる」筋肉です。

この筋肉、日常生活やスポーツの色々な場面でつかわれる「はず」のものです。特に、テニスやボールを投げるタイプの運動では、頻繁に使われています。この筋肉を使わないでラケットを振ったりボールを投げたりすると、肩や肘を痛めることにもなりかねません。(同じ筋肉を使うからといって、こういったスポーツがヴァイオリンのために良いかどうかは別の問題があります。)実際には、この筋肉を使わないでヴァイオリンを弾いている人が驚くほど多いのです。実は「弓が速く動かない、大きな弓が使えない」という悩みを持っているレイトスターターのほとんどが当てはまるのではないか、とすら思っています。

まず、表題の「余計な筋肉(や頭)などを使わないことの重要性」について説明します。これは、ボウイングだけでなく全てのことに通じる原則であると考えていただきたいと思います。

話をわかりやすくするために、単純に考えてしまいましょう。基本的なボウイングで、背中の筋肉で腕を持ち上げて肘の屈伸だけを使い、手全体の中でその他の部分は使われていない人がいると仮定してください。(実際にはそんなことはありません。)この状態では、手首や指、またそれらを動かす筋肉は使われていません。仮にこの状態で基本的な運弓ができたとすると、使われていない他の部分は「リザーブ」されています。新しいボウイングテクニックが必要になったとき、この「使われていない」部分をフルに利用することができることになります。 (さらに…)

今月号から、レイトスターターの方達を主なターゲットにした連載を始めさせていただきます、柏木です。お付き合いの程、どうぞよろしくお願いいたします。 私は、大人になってからヴァイオリンを始めた人たちとお付き合いさせていただく中で、多くの方が数年で「限界」に達してしまい進歩が止まってしまうのを目にしてきました。その原因を探っているうちに、「大人用の指導法が確立されていない」ということに気づき、どうやって上達の道筋をつければよいのか、あれこれと試行錯誤をくり返してきました。私の拙文が、これからヴァイオリンを始めようという方・始めたばかりの方だけでなく、長い間弾いているのに上達しないという悩みを抱えていらっしゃる方達にも、少しでもお役に立てれば幸いです。

私の紙上講座は、「身体の使い方・・・その1」からスタートです。ヴァイオリンだけではなく、全ての楽器を演奏するために、また日常でも気になることの多い「脱力」を、最初のテーマにしてみたいと思います。

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