柏木真樹 音楽スタジオ

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のアーカイヴ

今回から、いよいよ実践編に入ります。まず初めは楽器の持ち方です。すでに楽器を長い間弾いている方も、少し立ち止まって自己検証してみてください。楽器の持ち方を少しだけ工夫することで、楽に体が使えるようになる人も少なくありません。

1. レッスン1・・・楽器の保持法の考え方

楽器の持ち方は、ボウイング同様、一人として同じではありません。ですが、持ち方についてはかなりいい加減な教わり方をしてきた人が多いのが現状です。「ヴァイオリンを始めるとき先生に楽器をお願いしたら、楽器と弓、肩当てがケースの中に揃っていました」と言われる方が何人もいたことには大変驚きました。その先生方は、初めて見る生徒さんの体にどの肩当てが合っているのかをどうやって知ったのでしょうか? とても不思議に思います。私が拝見するようになった方で持ち方をいじらなかった人はほんの数人です。「楽器をどうやって持つか」ということは考えても「どのように持ったら合理的か」ということを理解するチャンスがなかったからだと考えられます。

肩当てをいろいろ替えてみる人はとても多いと思います。その際、ほとんどの人が「体にしっくりして音が良い」肩当てを探しますね。これはその通りなのですが、市販されている肩当てが初めから完全にフィットする人はとても少ないと思います。もちろん、練習を積んで余裕ができてくると肩当ての形状にそれほどこだわらずに弾けるようになることも多いものです。

楽器を持つときに留意する点は次の二つです。 (さらに…)

(2) レッスン2・・・各論

今回は、大人と子どものレッスンの違いの留意点を、幾つかのテーマに分けて述べてみたいと思います。

* レッスンの場も訓練の場にする

「レッスンの常識」に従えば、レッスンの場は家で練習をしてきたことを先生にチェックしてもらい、新しい技術を教わったり音楽的なことを学んだりする場です。ですから、なんらかの理由で練習ができなかった場合、レッスンを流してしまうことも珍しくありません。私自身、レイトスターターのレッスンを始めた当初は、練習をしてこなかった生徒をそのまま追い返したこともありました。

しかし、私のこの「レッスンの常識」は、ある男性をレッスンして根底から覆されました。この方は、音の高低が全く認知できなませんでした。非常に希なケースだとは思いますが、音の高低を判断せずに、ヴァイオリンを「指の場所で」押さえて弾いていたのです。比較的器用に指を「そのあたり」に置いて弾いていたので、当時この方が付いていた先生は、彼が「音高の判断がつかない」ということに気がついていませんでした。この方のレッスンは、二つの違う音のどちらが「高いか」ということを認知することからスタートしました。そして、数ヶ月かかって、ようやく「ドレミファソ」が歌えるようになったのです。

この生徒さんのレッスンは、まさに私の意識を革命的に変えました。レッスンの場が一番貴重な「音感をつける時間」でなくてはならないという当然の事実に気がついたからです。レイトスターターのレッスンの場合、先生の実演する「正しい音」を利用して「音感の訓練」を絶えずくり返すことがどうしても必要なのです。もちろん、この例のように極端な場合ではなくても、正しい音程感覚や和声感は、初めのうちはレッスンの場でしか知ることができません。 (さらに…)

1. レッスン1・・・総論

今回から二回ほど、大人と子どもの受けるレッスンの違いについて、歴史的な背景を踏まえながら考えてみます。本来ならば最初に述べるべきところですが、実践的な身体機能や音感の違いを少しでも理解してから読んでいただきたいので、このような順序になりました。今回はすぐ役に立つ紙上レッスンにはなりませんが、今後の連載をよく理解していただくために必要なことですので、お付き合い下さい。

● 80年代までのアマチュア音楽界の背景

楽器の訓練は、長い間「子どもの頃から」続けていくものであると考えられてきました。音楽をすることが職業的である場合がほとんどであった時代の名残りであるともいえるかもしれません。昔は、音楽を学ぶということはすなわちプロを目指すものであり、なりそこなった少数の人や情操教育として音楽の教育を受けた「上流階級」の子女だけがアマチュアの音楽家であったのです。戦後の一時期、大学や社会人になってからオーケストラの楽器を始める人たちが急速に増えたのは、「アマチュアとして子どもの頃から音楽教育を受けることができなかった人たち」が大人になってから興味のある分野に参入できるようになったからでしょう。60歳代以上で学生の頃にクラシックの楽器を始めた方が意外に多いのは、このような状況の結果だと思われます。 (さらに…)

前回までの二回で、大人や音程に自信がないアマチュアの方が注意して欲しい「音の仕組みと音感を鍛えるための原則」を述べました。今回は、実際に音感を身につけるためにどうしても必要なことを一つ付け加えたいと思います。今日の一つ目のテーマは「楽器を鳴らす」ことです。ただし、ここでの主眼は、「楽器をどのようにして鳴らすか」ということではありません。楽器の「鳴り」を知ることと、楽器が鳴ることによって何が起きるのか、ということを知っていただくことが目的です。

* 楽器が鳴るために必要な最小限のこと

楽器をいかに鳴らすか、ということは大問題です。ボウイングやその他の要素を検証する必要がありますので、このことだけで別項をたてるつもりですが、今回は音程がある程度検証できるために必要最小限の楽器の鳴らし方を考えましょう。

ボウイングで、アマチュア、特にレイトスターターが陥りやすい典型的な二つの症状が、弓がバタバタしないように押さえつけてしまうことと、雑音をなくすために弓を浮かせてしまうことです。今まで私が接した例でいうと、どちらにより「陥りやすいか」ということは、先生の教え方にも密接に関係しているようです。初めから「しっかり弾きなさい」と教える先生のお弟子さんは前者に、「雑音の少ないきれいな音を目指しなさい」と強調されて育った方は後者になってしまう傾向があると思います。

弓を押さえつけてしまうと、楽器の振動を殺してしまうだけでなく音程も違ってしまいます。弓を強く押さえつけると、かかった圧力で弓がたわんでしまい、弦長が長くなり弦のテンションが強くなるからです。また、弓を浮かせてしまうと楽器の鳴りを確認することができません。音程も不安定になってしまいます。 (さらに…)

●「うなり」を認知すること

前回述べたように、人間の耳は「簡単な整数比の周波数である二つの音」を「美しい=はもる」と感知します。この「はもる」関係を、「純正な二音」と表現することにしましょう。同時に鳴る二つの音が簡単な整数比に近くなると、「わーん・わーん」という人間の耳が捉えることができる「うなり」を発するようになります。この「うなり」は、二音が簡単な整数比から少しばかり遠いと「わんわんわん」と細かく聞こえ、二つの音を純正に近づけていくと「わんわんわん」が「わーんわーんわーん」さらに「わーーーーんわーーーーん」と幅が広くなっていきます。最終的に二音が純正に非常に近くなると、このうなりは幅が広すぎて人間には認知できなくなります。「はもる」とは「うなりが聞こえない状態」であるとも言えます。

この「うなりが認知できない」音の間隔には若干の幅があります。今まで私が実験したところでは、ほぼ半数のレイトスターターがすぐにうなりを聴くことができましたが、最初は全くうなりを認知できない人も決して少なくありません。しかし、がっかりすることはありません。個人差や音の高さ、楽器の違いなどによって生じる差もありますので一概には言えませんが、前回述べたように「純正な二音を使って耳を鍛える」ことでほぼ純正に近いところまでうなりを聞きわけることができるようになるものです。 (さらに…)